撃沈! ふたつのメッセージ

西野ゆう

第1話 ダイイングメッセージ

 ――ダイイングメッセージ。

 それは、殺人の被害者が最後の力を振り絞り、自分の血で、床に犯人の手がかりになる文字や記号などを書くこと。そして、そうやって残されたメッセージのこと。

 おかしな話だよ。

 大抵の場合、被害者は直接犯人の名を書かない。これにはそれっぽい理由が付け加えられる。

 犯人に見られた場合でも、それと気付かれないように、だとか。

 あり得ないと私は思う。瀕死の状態で残した文字なのだから。犯人は読めなくとも暗号だとは気付くに違いない。消すか、最低でも細工はするはずだ。

 被害者の立場で考えてもおかしすぎ。

 どうせ死ぬのだから。犯人の名を書けば早いし、脳に血液が不足している状態で、変に頭を使う必要もないのに。

 そう言って、私が持論を展開すると、推理クラブの同級生、祥平しょうへいがポカンと口を開けたまま黙ってしまった。これは、たぶんあれだな。あきれている。

「あきれているんでしょう?」

「よくわかったね。その通りだよ。屁理屈言わせたら伊沙子いさこ以上に腹が立つヤツはいないね」

 祥平は苦笑いしている。

 私は「ふんっ」と鼻を鳴らして逆襲を始めた。

「でもね、実際に近頃のミステリーでは、ダイイングメッセージを扱う事件でも、必ずと言っていいほど、犯人の工作が入っているんだよ。リアリティの欠如は、ミステリーでは致命傷なんだからね」

「はいはい、伊沙子様、心得ておきますよ」

 しょうがないな、と私はため息をついてから、手を祥平に伸ばした。

「まあ、見せてみなよ。そのダイイングメッセージを」

「うん、それじゃあ紙を渡したらスタートね。あと、いつも通り、ラスト三十秒にスマホタイムがあるから」

 スマホタイム。それは、スマホの機能を最後の三十秒間は使い放題という「必殺技」だ。正義の味方も、時間ギリギリに全力を出すからね。

 私は黒板上の時計を見た。二時十五分。五分以内、つまり、二時二十分までに答えを導けば、私の勝ちになる。

「じゃあ、スタート!」

 私は祥平からルーズリーフのノート一枚を受け取った。

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