失われた金貨の謎

岸亜里沙

失われた金貨の謎

海賊船『デス・アローズ』の船長キャプテン、タローは憤慨していた。

自身がほんの僅か目を離した隙に、船長室に保管していた数十枚の金貨が消えていたのだ。

その金貨は数日前、ポルトガルの帆船『クリローナ号』から奪ったもので、麻袋に詰めて机の引き出しに入れていたのだが、中の金貨だけが何者かに盗まれていた。


この船の現在地は大西洋のまっただ中。

金貨を盗んだ者が、船員の中にいるのは明白だ。

タローは、船の乗組員を全員甲板に集めると、剣を太陽に翳し、そして一人一人の眼前にきっさきを突きつけると尋問を始めた。


「この中に裏切り者がいる!金貨を奪った愚か者がな!お前たちに言っておく。今この場で正直に申し出れば、命だけは助けてやるぞ。さあ、金貨を盗んだのは、誰だ?」


乗組員は驚き、狼狽した表情で互いに顔を見合せたが、誰もが無言のまま。


「なるほど、では犯人が分かった時点で、我輩わがはいがそいつの首を斬り落としてやる!覚悟をしておけ!今から全員の船室を調べる!まずは操舵手、ゴンゾーの船室だ!」


ゴンゾーは船室のドアを開け、タローを招き入れる。


タローはゴンゾーの船室をくまなく探す。


「この箱はなんだ?」


「それは航海をするための、海図と鉛筆を入れてある箱です。万が一捕縛された際にも、我々の基地の情報がれぬよう、鍵をかけてあります」


「この箱を開ける鍵はどこだ?」


「それが、数日前に紛失してしまって、探している最中であります」


「怪しいな。この中に金貨を隠したんじゃないか?」


船長キャプテン、箱を持ち上げてみてください。その箱の中には、海図と鉛筆しか入っておりませんので、金貨が隠してあるとすれば、かなり重くなってるはずです」


タローは箱を持ち上げてみる。


「ふむ。確かに軽いな。とりあえずよかろう。では次、航海士のミチオの船室だ」


皆はミチオの船室へと向かう。

ゴンゾーは安心した様子で、タローの隣を堂々と歩く。


ミチオの船室に入ると、タローは声を上げる。


「おい、何故ハンモックを外し、丸めて置いてあるんだ?怪しいな」


「そ、それは・・・」


「そのハンモックの中に、金貨を隠したんだろう。中を見せてみろ」


「それだけは、お許しください」


「ならばこの場で貴様の首を斬り落とす」


「わ、分かりました。お見せします」


ミチオがハンモックを広げると、タローは呆然とした。


「なんだこれは」


「すみません、船長キャプテン。実は先程昼寝をしている時に、うっかりおねしょをしてしまいまして。後で、甲板で干そうと思い、置いておいたものです」


「ま、まあいい。金貨が無い事は分かった。では次、シゲオ、タカオ、ゲンイチロウの共同船室だ」


皆は共同船室へと向かう。

ミチオだけは最後尾で肩を竦めている。


共同船員に入ると、タローはまた大声を出す。


「おい、船室の真ん中に置いてある、この樽はなんだ?」


「それは、俺たちでポーカーをするんで、テーブル代わりに使ってました」


シゲオが代表して答える。

確かに樽の上には、トランプが置かれていた。


「樽の中を見せろ」


「む、無理っす」


タカオがおどおどと答える。


「何故だ?この中に金貨を隠したからか?」


「違います船長キャプテン。この樽は、アメリカのハンバーガー号を襲撃した時に奪ったものです。隠しておりましたが、実はこの中にワインが入っているんです。夜な夜な三人で晩酌をしておりました」


ゲンイチロウが包み隠さず話す。

シゲオとタカオは、ばつが悪そうに下を向いている。


「なんだと?お前ら、我輩わがはいに内緒でそんな事を。ふん。本来ならば懲罰ものだが、まあ晩酌の事は、許してやろう。では、この樽の中に金貨が無い証拠として、我輩わがはいにこの樽のワインを飲ませてみろ。金貨を隠したのなら、ワインの味が変わっているはずだ」


「分かりました。どうぞ」


タローは樽の横に置かれていたグラスにワインを注ぎ口に含む。


「なるほど、上質な味のワインだな。確かに金貨は隠して無さそうだな」


「当たり前っすよ。金貨なんかより、俺たちはワインがあるだけで良いっすから」


タカオが笑顔で答える。


「ふははは。だがこのワインは我輩わがはいが没収する。後で船長室に運んでおけ。分かったな。次は料理長、ショーキチの調理場兼船室だ」


皆は調理場に向かう。

シゲオ、タカオ、ゲンイチロウだけはしょんぼりしながら、俯いて歩く。


調理場には調理中の料理の匂いが溢れていた。


「ふむ。ここにも金貨は無さそうだな。ん?この料理はなんだ?」


「それはクラムチャウダーです。材料は山程ありましたんで、鍋で大量に作りました」


「ちょうど腹が減っていたのだ。一口食わせろ」


タローはレードルでクラムチャウダーを掬う。


「あ、船長キャプテン、料理は冷めてしまってますから、温め直します」


「腹が減っているんだ。別に構わん」


「お待ちください!」


タローがクラムチャウダーを口に入れると急に顔をしかめ、何かを吐き出す。

床に転がったそれは、紛れもなく船長室から消えた金貨の内の1枚だった。


「お前、料理の中に盗んだ金貨を隠したのか!ズル賢い奴め!我輩わがはいや、他の者に何食わぬ顔で料理を振る舞った後、こっそり金貨を回収するつもりだったのだな!」


「そ、それは・・・」


「覚悟しろ。我輩わがはいがお前を鮫の餌にしてやる。料理人として最高だろ?自分が魚の食材になるのだからな。ふははは」


海賊船『デス・アローズ』の船内には、タローの笑い声と、ショーキチの絶叫がけたたましくこだました。

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失われた金貨の謎 岸亜里沙 @kishiarisa

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