第十四章 ~ サティア ~

サティアは、目を見開いたまま、雄紀の瞳を真すぐ見つめながら、足早に歩いて来た。

そのまま、雄紀の体に腕を回し強く抱きしめた。

多分、1分間ほどのことであったであろう。

しかし、雄紀には、とても長い時間に感じた。


サティアは、腕を解きながら、2,3歩後ろへ下がった。

我に返ったように、雄紀を見つめながら口を開いた。


「お前は、誰だ? 名は何と言う? 」


雄紀の心の奥底の何処か分からないところから、この挨拶の順序がひっくり返った反応は、如何にもサティアらしいものだと言う気持ちが湧いて来て、目を少し下に向けると思わず、


「ふっ。 」


と、笑いをこぼした。


突然、サティアの大きな瞳に涙が込み上げて来た。

サティアは、その場に崩れ落ちて鳴き始めた。


雄紀の心の中に、号泣する サティアに対して、“愛おしい”と言う思いが湧いてきたが、今の雄紀には、サティアが泣き止むまでその場で見守ることしかできなかった。


どれくらいの時が立っただろうか?

サティアが、瞳を押さえていた両手を降ろして、雄紀の瞳を見つめた。


「僕は、北里雄紀と言います。 あなたは? 」


「私は・・私は、先の王の命を受けた王族の占い師、サティアだ。 」


雄紀は、急に、極端に高圧的な話し方を始めた サティアに戸惑った。

サティアは続けた。


「お前は何処に住んでいる。 」


「この川沿いに行ったところです。 」


「そうか。 それは、どこだ? 」


「居候なので、詳しくは言えません。 ヴィッディーを知っていますか? 」


サティアの顔が、急に優しくなった。


「ヴィッディーを知っておるのか? 」


「何日か前に、初めて会いました。 」


「・・そうか。 」


サティアはうつむき加減で答えた。

そして、雄紀の瞳を少しにらみつけるように言った。


「お前はここで何をしている? 」


「お城があると聞いたので見に来ました。 」


「何故だ!? 」


サティアは、すがるように、その黒目がちウルウルした様な瞳を向けた。


「・・さぁ? 」


雄紀は、サティアの瞳から視線を逸らしながら、ちょっと意地悪な風に答えた。


「変わらないのね。 」


思わず微笑みながら、サティアから出た言葉だった。


「何がですか? 」


雄紀は、懐疑的にサティアを見た。


「・・いいわ。 」


サティアは、少しイラついたように、楽しそうに答えた。


「私は、あなたに、また会うのよ。 先の王の命を受けた、王族の占い師の私が言っているのだから間違いないわ。 」


「そうですね。 」


雄紀は、微笑みながら サティアに答えた。


「僕は、帰ります。 それじゃ・・。 」


「・・・。 」


サティアは何も言わず、少し寂しそうに 雄紀を見送った。

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