第十一章 ~ ヴィッディー ~
「はっ! 」
雄紀は、目を見開いた。
『こっちが現実だよね・・。 』
雄紀は、しばらく真っ暗な空(くう)を見ていた。
雄紀は、ついさっきまで現実だと思っていた、夢のことを思い出した。
その夢は、あまりにも現実の様だった。
兵士から
タイルの床の感触。
夢の中で雄紀は、“ソーハム”と呼ばれていた。
呼ばれていただけではなく、夢の中で、雄紀は雄紀ではなく、ソーハムだった。
「しかし、ソーハムは、僕とは正反対の性格をしていたな。 」
雄紀は思った。
夢の中のソーハムは、自信に満ち溢れていて、リーダー的存在で、人々に慕われていた、カリスマ的な人物だった。
心から信じあえる親友もいた。
そう言えば、夢の中に サティアが出て来た。
意識が遠のいていく、雄紀にとって、サティアの頬から雄紀の頬に落ちた涙の温もりや、雄紀の顔を包むサティアの手、そして、サティアの香りのお陰で、死に対する恐怖や不安を全く感じなかった。
それどころか、サティアと自分自身が半分半分で、いつの日か2人は1つの存在へと戻っていくのだと言う確信に、雄紀の心は金色に光る海に浮かぶ島々の様に穏やかだった・・。
しかし、雄紀と、研究所のサティアとの関係と、ソーハムと夢の中のサティアとの関係とは全く違う。
ジャイナに来てから、サティアのことを全く思い出さなかったと、言うと噓になる。
しかし、研究室に勤めていた時の様に、サティアの為に自分自身が崩壊していくような感覚に襲われることは無くなっていた。
不意に、研究所のサティアに会えない距離を、限りなく遠くに感じた。
雄紀は、心が痛くなった。
その時、真っ暗だった空(くう)が、隅からフワッと明るくなった。
「ソーハム!! 」
おばさんの声だ。
雄紀は、おばさんの方を見た。
「気が付いたのかい? あぁ、良かったよ!! このまま目を覚まさなかったらどうしようかと思っていたんだよ! 」
おばさんは、奥の部屋へ行き誰かと会話をして、再び、雄紀の部屋に足早に入って来た。
おじさんも一緒だ・・もう一人一緒に入って来た。
50歳位の男性だ
「・・ヴィッディー!? 」
「ああ、そうだよ。 始めましてだけど・・なんで知ってるんだい?? 」
夢の中のヴィッディーよりも長い年を経ている様子だったが、その顔立ち、雰囲気、全てが唯一無二の親友であることは間違いなかった。
しかし、夢は現実になることはない・・。
『まだ、僕は半分夢の中に居るのだろうか・・。 』
「・・すみません。 そんな風に、おじさんと、おばさんが、おじさんのことを呼んでいた気がしたので。 」
雄紀は、はぐらかした。
おばさんが話し始めた。
「ソーハム、7日間眠ったままだったんだよ。 呪いにあてられたんだ。 」
そう言いながら、試験管の中に入れられた、雄紀の左耳の後ろに刺さっていた、動物の骨を細く小さく削って作られた何かを見せた。
「誰から、刺されたのか見なかったかい? 」
雄紀は、おばさんと、おじさんと、ヴィッディーに、7日前に、家の周りを散策したこと、
木の陰に、竜巻の避難場所の入り口の様な戸を見つけたこと、そして、急に恐ろしい存在の気配を感じて直ぐに、左耳の後ろに激痛が走り、おばさんが持っている試験管の中に入っているものが刺さっていたことを話した。
おばさんと、おじさんと、ヴィッディーはしばらく複雑な表情で、雄紀の顔を見つめた。
「目が覚めたばっかりだから、まだ休んだ方が良い。 朝まで、ゆっくり寝ておいで。 明日の朝は、おばさん特製のポーリッジを作るよ。 おやすみ・・。 」
そう言うと、おばさんと、おじさん、ヴィッディーは部屋から出て行った。
雄紀には、訳が分からなかった。
「ヴィッディーがいるなら・・もしかして、ここにもサティアがいるのか!?」
もし本当に、この世界にサティアが存在するとすれば、ヴィッディーから推察するに、50歳位になっているはず。
もしかしたら、この世界のサティアに会えるのかも知れない・・。
雄紀は、心臓の鼓動が激しくなっていくのを感じた。
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