第十章 ~ 夢 ~

・・・雄紀は、最初に降りた黒い壁の建物の中にいた。

その建物の中には沢山の人が椅子に座っていた。

ミサか儀式のようなものが始まるのだろうか?


雄紀も一番後ろの列の右端の席に座っていた。

誰かが近付いて来る。


「ソーハム、行くか?」


20歳くらいの男性が、雄紀の左後ろから耳打ちしながら話しかけて来た。

夢の中で、その男性は雄紀の親友だった。


「後、少し。 サンヒター王が王座に座るのを見計らって石に向かう。」


「本当にやるのか?」


「ああ。」


「本当に、出来るのか?」


「もちろんだよ、ヴィッディー。 私には確信がある。 心配するな。」


「しかし、どうして、このタイミングなんだ? ここで何も行われていない時の方が誰もいなくて安全なんじゃないか?」


「この間、一度石が盗まれてから、石に近づくのは簡単ではなくなったんだよ。」


「でも、石は見つかって戻されたんだろ。」


「ああ。 でも、あれ以来、石の見張り番が厳しく警備しているんだ。 ただ、サンヒータ王が現れる時だけ、警備がそこから居なくなるんだ。」


「なるほど、王や王族の人たちの警備に皆動員されるからだね。 」


そこへ、もう一人、同じくらいの年頃の男性が近付いて来た。

そして、2人に囁(ささや)いた。


「もう直ぐ、サンヒター王が現れる。」


「アッデス、君は、王のところに戻ってくれ。王の傍に君がいないと誰かが君を探しに来る。怪しまれる。」


「でも、ヴィッディー、私も本当に、ソーハムがやれるのか確かめたいんだ!」


「僕は、やるよ。ジャイナの為に、この世の為に! でも、アッデス、君は玉座の傍から僕の勇士を見守っていてくれ。」


「・・ソーハム、解ったよ。」


後から来た男性は、その場を立ち去った。


讃美歌が流れ始めた。

すると、乳香を持った子供たちや、祭祀たちの後に続いて、奥から王冠を被った白髪の男性が、20歳くらいの女性に左手を預けて、右手に王笏(おうしゃく)を持って、ゆっくりと歩いて現れた。

そこに集った民は歓声を上げた。

そして、その後を、王の第一継承者であろう男性と、アッデスが続いて歩いて出て来た。


サンヒータ王が、玉座に座った。


「今だ!」


雄紀は、ヴィッディーと目配せをして、さりげなく立ち上がり、その広間の右奥の石の方へ向かった。

やはり、いつも、3人、石に背を向けて立っている警備も居なかった。

ヴィッディーは、石のまわりにかけられた紐をポールから外した。

雄紀は、速やかに中に入り、石の方へ向かった。


その時だった、兵隊が物々しくやって来た。

ヴィッディーが叫んだ!

ソーハムが振り向いた。

ヴィッディーが兵隊の1人に後ろ手にされ、床に押し付けられた。

違う兵隊が、ソーハムを羽交い絞めはがいじめにして口を押えた。

その斜め前にいた1人が剣を抜いた。


「アッデス!」


ヴィッディーが叫んだ。


その剣は、ソーハムの右わき腹を深く突き刺さされた。

ソーハムの傷が致命傷であることを確認した、アッデスは、ヴィッディーの口と鼻を塞ぎ気絶させた。


そこへ、サンヒータ王の左手を引いていた女性が走って来た。


「ソーハム!! 」


『サティア?? 』


研究所のサティアに全てがそっくりであった。

明らかに違うが、紛れもなく サティアだった。

雄紀の意識は混濁していく・・。


「どうして君がここに・・・。」


「あぁ、間に合わなかった! ソーハム! マハムリテュンジャヤ。 私はあなたに、また会えるから!! 」


サティア泣いている・・。

泣かせてはいけない・・。

大切な人なのに・・。


雄紀は、だんだん周りの音がぐるぐる回って聞こえて、目の前が真っ暗になった・・


「君は、僕が守るんだ! 」


・・そして、雄紀は目が覚めた。

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