第六章 ~ お尋ね者 ~

「ここから、北に3日間くらい歩いて行ったら海に出るんだけど、その向こうに島があるんだ。そこは、電話みたいに、コンピューターが繋がらないところでね。だから、コンピューターで悪いことした人たちが入っている刑務所があるんだけど。昔ね、どれくらい昔だか、学の無い私には聞かないでおくれ。その頃、そこから脱走する人たちが多かったんだ。だから、ある、偉い学者さんたちが研究して受刑者の人たちに蛍の光を付けたんだ。どうやったのかは、解んないけどね。で、その人たちは、脱走して本土に辿り着いても、夜になると光るから、直ぐ捕まえられると思ったんじゃないの?それから、確かに、あそこの刑務所に入れられた罪人のほとんどは脱走しても直ぐに捕まるようになったんだ。でも、その脱走した人たちの中には、上手く地下鉄やら地下道やらに隠れて、生き延びた人たちが居たんだ。私らは、その脱獄囚の子孫なんだ。」


「へぇ・・・」


雄紀には、どうしてその光が遺伝するのか、とても興味深かった。


「おばさん、そう言えば、大きな建物の大きな部屋で、真っ黒な部屋があって奥の中央に丸い石が置いてあるところで、麻色のローブの上に群青色か紫の服を着た人が居たんだけど、あれは誰?あそこは何?」


「ソハム、行ったのかい。もしかして・・・、あんたじゃないよね。あそこはね、ソハムみたいに光らない人たちの教会なんだよ。青みたいな紫みたいな服を着ていたのが、一番偉いお坊さんで、ここらの一番偉い人なんだ。あの人が、この国の法律も税金も全部決めてるんだ。アッデス様に会ったのかい?」


「いや、道であった人に聞いたんだ・・・。(嘘をついた)」


「昨日ね、あんたを見つける1時間くらい前だったか、教会で大騒ぎがあったんだよ。黒い部屋は、礼拝堂で、その真ん中に聖岩石と呼ばれる石があって、救世主だけがその石を動かすことが出来るって言い伝えがあるんだ。」


「へえ。」


「その石を持ち上げた人が居るんだって。丁度、あんたくらいの人だって言ってたと思うけど。その石は、真っ黒だったのが、真っ白になって虹の色に光ってるんだって。それに、宙に浮いたままなんだって。

だけどさ、ここだけの話、アッデス様は、救世主に現れて欲しくないらしいんだ。今は、思いのままに、国を動かしてるけど、救世主が現れたら、そうは行かなくなるだろう。表向きは、救世主が現れるのを待ってるなんて祈りを捧げたりしてるけど、嘘だよね。あれ以来、教会は閉めてるし、夜な夜な兵士が騒がしいでしょ。探してるんだよ、石を持ち上げた人を。穏やかじゃないね~。」


雄紀は、ゾッとした。

やっぱり、捕まったら間違いなく殺される。


確かに雄紀は、石を持ち上げてしまった。

と言うか、何となく手をかざしたら石がくっついてきた感じだった。

それに、光りだすなんて想像すらしなかった。

だいたい、自分自身が救世主であるはずが無い。


それから、おばさんにそれがばれていないか、雄紀は不安だった。

ばれてしまったら、おばさんから兵士に突き出されてしまうかも知れない。

しかし、もしかすると実は、おばさんは最初から雄紀がしてしまった事を承知の上で助けてくれたのかも知れない。


いずれにしても、今、この知り合いが、おばさんしかいない状況が全く分からない世界で、逃亡者生活を始めるよりも、おばさんにお世話になりながら、全てに細心の注意を払って生活を続ける方が賢明だと、雄紀は結論付けた。


雄紀は、勇気を振り絞って、おばさんに聞いてみた。


「もし、おばさんが、その石を持ち上げた人をみつけたら、どうするの?」


「さぁね~、一生ヘーゼルマン並みの生活が出来るくらいの賞金が貰えるらしいから、突き出しちゃおうかね~。」


おばさんは、いたずらっ子の様に笑った。

雄紀は、瞳の奥を覗かれたような気がした。


「そうだよね。」


雄紀は、ごまかす様に目を薄めて笑顔を作ったが、その笑顔が歪んでいるのを認識した。


上手くごまかせていない。

もしかしたら、気づいていない?

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