第四章 ~ 光る人 ~

光る人なんて聞いたことが無い。

人工的に、癌細胞がんさいぼうのマーカーにホタルの光と同じ成分を使う研究については聞いたことがあったが・・。


辺りを見回すと、左向こうにガラス窓があった。

外には所々、明るい場所があり、そこには人がいた。

その明るい場所には街頭は無いが、その人たちの全体が映し出されていた。

そして、その人々が動くと明かりも移動した。


『え!?』


雄紀は、驚きで部屋の中に振り返った。


『この部屋には光源になるものが無い・・・。』


しかし、見えるという事は光源になるものが、何かあるはずだ。

雄紀は、ガラスに映る部屋の中を見ると、ガラスに黄色く光るものも映っていた。

そして、おばさんに視線を戻した。


「光ってる・・・。おばさんが光ってるの?」


「・・な~んだ。何にも知らないの?

まぁ、ヘーゼルマンは私たちのことを学校では教えないだろうからね。」


と、ちょっと困ったような笑顔をした。

そして、軽いため息をつくと話し出した。


おばさんの話によると、この世界には、光る人たちと、光らない人たちが存在しているそうだ。

光らない人たちが上流階級で社会を動かしていて、光る人たちは、その光らない人たちの下で働いて賃金をもらって生活をしている。

所謂一般庶民なのだそうだ。

もしかすると、そして、その人たちの光り方や色によっては、それ以下に扱われている人達もいるらしいとも言っていた。


おばさんは、にっこり微笑んだ。


「何か、お腹にいれるものを持ってくるね。

急にお腹に何か入れるのは良くないから、ポーリッジを作るね。」


そう言うと、おばさんはその部屋を出て行った。


再び窓の外を見ると、明らかに、まるで松明の様な灯りを持った人たちが辺りを走り回っているのが見えた。


『何かを探しているのだろうか?誰か?・・・』


突然、今までの出来事が頭の中に蘇って来た。

そして、多分、外で走り回って何かを探しているように人たちは、自分を探しているのだと悟った。


雄紀は。自分の状況を整理することにした。

多分、橋の下の“穴”を通って違う世界に来てしまったのだった。


『そう言えば、ここの世界で 最初に僕が居た場所は何だろう? あれは何の集団なのだろう?』


雄紀は、あの丸い石を動かしてしまった。

そして、石を動かしたのみならず、色まで変えてしまった。

あの場所から逃げ出す時には、あの石は浮いていた。

まだ、浮いているのだろうか。


あれは、悪いことなのだろうか?


多分、良くないことなのだ。

良いことのはずが無い。ローブを着た人たちの反応は尋常ではなかった。

だから、必死に探し回っているのだろう。


雄紀は窮地に立たされていると悟った。


『明日の朝、おばさんに聞いてみようか・・』


雄紀は、これまで他人のごたごたに巻き込まれた事が無かった。

人と交流を持つことすら恐れていたので、このようなことは初めてのことだった。

誰かに頼りたい、おばさんに頼りたいと思った。


しかし、もしかしたら、おばさんに全てを話したら、あの黒い部屋の人たち、ヘーゼルマン族に、雄紀を渡してしまうかも知れなかった。

もし、全てを知った上で雄紀を助けてくれたとして、もしかしたら、それは罪に問われることなのかも知れなかった。もしかしたら、直ぐにでも自分が居なくなった方が、おばさんの為になるのだと悟った。

しかし、ひどい頭痛で動けない。少しの間、体を起こしていただけで頭がくらくらした。体中が痛い。

体力が回復するまでは、ここに居るほかないと思った。


行き倒れていた、見慣れない、それも光らない若者を自分の住処に泊めてくれた。

雄紀は、それがどれ程幸運なことかと考えた。

そして、同時に おばさんは大変な拾い物をしてしまったのだ。


『いや、様子を見よう。そして、いつか、おばさんに感謝しよう・・・』


雄紀は、眠りについた。

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