第14話 襲撃と氷炎
フィエラ様が積極的に私と交流してくれたお陰で、他の子達も私への陰口は止め、普通に話してくれるようになった。
私と違って、フィエラ様はコーデリア辺境伯家のご令嬢。そんな子が私を友達として認めるとなれば、差別なんてしてられないんだろう。
みんな子供なのに、現金というか打算的というか。まあ、それが悪いとは思わないよ、貴族ってそういうものだし。
それに、感情面での折り合いがつけば、過去のことを水に流してすぐに切り替えられちゃうのも、子供らしくて良いと思うしね。
「テノアさんは、スレイプ様にゴブリンの群れから助け出していただいたんですのよね?」
「万を越すゴブリンの群れを薙ぎ倒し、傷付いたテノアさんを抱えて颯爽と助け出すスレイプ様……きゃー! カッコいいですわ~! 私もスレイプ様に助けていただきたいですの!」
「あ、あはは……」
代わりに、噂が変形してまたおかしなことになってるけど。
私を助けてくれた英雄なんて本当はいないのに、なぜかスレイプさんっていうSランクの人がそうに違いないって確定しちゃってるし、私の体験をラブロマンス風に解釈する想像力の豊かさは、流石子供って感じ。
いや、私も今は子供だし、逆の立場なら似たような感想になったかもしれないけどね?
「でもまあ、ちゃんと仲良く出来そうで良かった……」
一時はどうなることかと思ったけど、無事友達を作って楽しいひと時が過ごせてるし、どこからともなく注がれるお兄様の視線も若干和らいだ。
これなら、家族に心配かけないっていう目標は達成出来そう。
後は……ある意味この子達の期待通りになっちゃうけど、スレイプさんと会えたら今回ここに来た目的は全部果たせる。
和やかな雰囲気の中、私はまったりお茶を飲みながらそう考えていたんだけど……どうやら、その考えは甘かったらしい。
「きゃああああ!?」
甲高い悲鳴が、パーティ会場に響き渡る。
一体何がと、声のする方に目をやれば、会場の入り口から数体の魔物が侵入しているのが見えた。
──こんな所にゴブリン!? なんで……!?
それとほぼ同時に、他の出入口からもゴブリンが殺到し、非武装の女性達はパニックに陥る。
私の周りにいた女の子達もそれは例外ではなく、今起きている現実が受け入れられずに恐怖と不安で涙すら溢していた。
「皆さん、落ち着いてください! 大丈夫です、会場には護衛の騎士達もいますから!」
唯一、フィエラ様だけは気丈に振る舞い、私達を落ち着けようと声を張り上げている。
招待された男性貴族達も、今こそ己の力を示す時だと携帯していた武器を抜くが、いかんせん数が多い。
ここは私も──と、槍を覆う布に手をかけたところで、
鮮血が、舞った。
「っ……!!」
ゴブリンと、出入口の近くで待機していた騎士が交戦し、半ば相討ちのように互いの得物を突き付け合ったのだ。
とはいえ、鎧を着ていた騎士相手に、ゴブリンお手製の粗末な槍が満足な効果を発揮するはずもない。掠り傷で済んだ騎士と違い、ゴブリンは刃に貫かれ絶命する。
「テノア、見るな!!」
そんな血生臭い光景から私を隠すように、お兄様が飛び掛かって来た。
私の視界を覆うように抱き締め、剣を構えて周囲を警戒している。
私を守ろうとしてくれているのは、素直に嬉しい。でも、今は甘えてる場合じゃない。
「《ミラージュ》、《カメレオンカラード》」
いつも特訓に使ってる分身体を透明化しつつ出現させ、意識を完全にそちらへ移す。
改めて周囲を確認すると、招待客のほとんどは自力で自分と家族を守れてるし、それほど問題は無さそう。
何なら、お父様とお母様が出入口の一つを完全封鎖して大暴れしてるし……あれ、扉が吹っ飛んじゃってるけどいいのかな?
そして、一番手薄で危険なのは……親から離れて固まっていた、私達子供だ。フィエラ様が声をかけて落ち着けようとしてるけど、中には闇雲に親を探して走り回ってる子までいる。
そんな子の一人に、ゴブリンが襲い掛かっていた。
「させない……!!」
すぐさま孤立した子供の下へ向かい、ゴブリンに足払いをかけて転倒させる。
透明化した私の接近にまるで気付かなかったのか、ゴブリンは完全に頭から床に叩き付けられた。
そこへ、すかさず拳で追撃をかけ、首の骨をへし折る。こうすれば、転んだ拍子に気絶してしまったように見えるだろう。
「へ? え、っと、助か……? ふわっ!?」
混乱している子供を抱きかかえ、すぐさまフィエラ様の下へ運んでその場に降ろす。
一瞬のことだったから、自分に何が起きたのかよく分かっていないんだろう。完全に混乱しきった表情のその子を見て少しだけ申し訳ない気持ちになるけど、緊急事態ってことで許して欲しい。
「でも、ここからどうしようかな……!」
このパーティ会場の出入口は、全部で三つ。
一つはお父様とお母様が封鎖してるし、もう一つは私が見れる。でも、もう一つまでは手が回らない。
守るより、いっそこっちからゴブリンの殲滅に動いた方がいいか。そんな風に思っていると、更なる事態が巻き起こった。
残った最後の出入口、そこが群がるゴブリン諸共炎によって吹き飛ばされ、氷によって封じ込められてしまったのだ。
「やれやれ……俺が少し出遅れているうちに、一体何事だ? まさか、コーデリア家がゴブリンを招待客に入れたわけでもないだろう?」
いつからそこにいたのか、私も全く気付けなかった。
氷漬けになった扉の前に立つのは、長身痩躯の若い男。
鮮やかな蒼色の髪を後ろで束ね、真紅の瞳は気怠そうにしつつも正義の意思を宿している。
その手に携えるのは、炎と冷気を纏う二振りの剣。色合い以外は瓜二つの双剣を構えた彼の登場に、会場は一気に歓声に包まれた。
「よく分からないが……このゴブリン、全部俺が仕留めてしまっても構わないよな?」
この世界最強の一角……Sランク冒険者、《氷炎》のスレイプ。
私が会ってみたいと思っていた人は、誰にともなくそう問いかけるのだった。
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