第5話 爆〇

『ジャックよ、何を迷っておる。自らの心に聞いてみよ。さすればおのずと答えは見つかるというもの。お前が姫を選んだとしても、ワラワは恨んだりはせぬぞ。なぜなら、ここの愚民どもを皆殺しに出来るからな。ふはっはっはっ』

(尖った爪を指から舐めて磨きをかける ジュルジュル)


小声「よしっ!」


「と、ところであんた!仮に、仮によ。仮にジャックがあんたを選んだとしたら。どんなところにデートで連れて行ってあげるのよ。どうせ、墓地とか毒の沼地みたいな陰気なところでしょーよ。ジャックはそんなところを喜んだりしないわよ。私なら長い付き合いだから、ジャックの好みは分かっているけどね」


『何じゃ?その質問は?まぁよかろう。ワラワの勝利は決まっていること。負けが決まって、あわれな遠吠えしかできぬ姫に情けを掛けて、そのふざけた質問に答えてやろう。

 ジャックとのデート場所、そうだなぁ、ドワーフの隠れ里にある秘密のピタゴラ遊園地なんてどうじゃ?知る人ぞ知る穴場スポットで、口コミで集まった世界中の裕福層だけが入園できる、アトラクション多めの娯楽遊園地じゃ。細かく丁寧な仕事をするドワーフ達が、一からコンセプトと遊具を作り上げた夢の世界じゃ』

「な、何よそれ!ちょっと面白そうじゃない。私も行ってみたくなってきちゃったじゃない」

『そこをな、アトラクションの一つ一つを破壊して回るのじゃ。くっくっくっくっ。遊びに来ていた裕福チルドレンの泣き叫ぶ姿や、愛情込めて作り上げた遊具が崩れ去るところを目の当たりにするドワーフどもの落胆した姿を、ジャックと一緒に見て楽しむのじゃ。想像しただけでワクワクしてきたぞ。くっくっくっくっ』

「ちょっと!あんた!救いようのない悪者ね!」

『お褒めにあずかり光栄にござりまする。姫様。ふはっはっはっ。茶番はここまでじゃ』


『さぁ答えを言え!ジャッ、、、、ん?!』

(片膝を付く魔女ヴァルボ ザッ)


『な、何じゃ?急に、眠気が。どういうことじゃ、、、ん、、、』

「ふふふ、ひひひ、ひゃひゃひゃ、ぎゃーひゃっひゃっひゃっ。今度こそ引っ掛かったわね!あなた、眠り薬を口にしたから、眠くなっているのよ!」

『い、、いつの間に、、、』

「それはね、あんたがさっき、ジュルジュルと汚い音を立てて舐めていた指が原因よ!私は最初に聖水の小瓶をあんたへ渡す前に、その指と爪を舐める下品な行為をあんたの癖だと気づいて、保険として瓶の周りに強力な眠り草の結晶を塗りたくっておいたのよ。あんたに毒が効かないと言っていた時はヒヤヒヤしたけれど、眠り草は効いたようでホッとしたとわ。まんまと私の策にはまったわね!きゃははは。いい気味よ!そのまま、おねんねしなさい!」

『お、おのれ、こざかしい、、真似を、しおって、、あのくだらない質問は、時間稼ぎだったか、、、こうなったら、奥義を使うしかないようだな。せっかくこの体にも慣れてきたところだったが、致し方ない。ワラワが大魔王様復活の為に習得した、魂移転術をするしかない!』


『ハァァァァー!暗黒魔法!コロッコロ!』

(魔女ヴァルボを中心にして周りの小石が浮き上がり渦を巻く ガタガタ)


「しまった!こいつにはこの技があったんだった!くそっ!こうなることまでは読めてなかったわ!ヴァルボの頭の頂点から白くて丸い塊が出てきたわ。きっと、牢の中にいる私じゃなくて、近くにいるジャックの所へと、とり憑く気ね!ジャック!あんたぼさっとしてないで早く逃げなさいよ!体が乗っ取られるわよ!あっ!ジャックの頭の上まで来た!このままじゃぁ!


 あなたが!この世から!いなくなるなんて!

 絶対に!絶対に!許さないんだからねー!


 ジャーック!!!」



(パクッ)


「へ?」


咀嚼そしゃく音 ムシャムシャ)


「は?」


(咀嚼音 ムシャムシャ)


「い、今、ヴァルボの魂と思わる白い塊が、ジャックの頭の頂点から入って、体を乗っ取られると思ったら、あんた、今、それ、食べた?口から入ったとかじゃなく、あんた今、自ら口を大きく開けて、ムシャムシャって、それ食べちゃったの?どーなってんのよー!大食いだけが取り柄だと思っていたけれど、あんた、そんな物も食べちゃえるの?」


『ん、ん?ここ、どこかしら?あら、ミーちゃん。そんなところで何してるの?何か悪いことでもしたの?何があっても私はあなたの見方よ。私も一緒に償ってあげるわ』

「お、お姉さま。間違いないわ、その私への名前の呼び方。間違いなくユティアお姉さまね。会いたかったわー!ろ、牢に入っているのは色々事情がございまして。

 ジャック!いつまでアゴを動かして食べてるのよ!もしかして味わってるの?魔女を倒したんなら早くここを開けなさいよね!」


(飲み込む音 ゴックン)

(牢のカギを開ける音 ガチャ)

(開かれる鉄格子  ギーー)


「お姉さま。実は、カクカクシカジカで、、、」

『あらまぁ!どうりでミーちゃん大人っぽいと思ったわ。3年も経っていたら、そりゃあそうよねー。それから、ジャック君のその力は、きっとあれよ。300年前の大魔王討伐時、勇者様パーティーにいたといわれている、爆食悪魔喰らいの最強戦士様と同じ能力ね。数百万人に一人といわれている、超レア能力よ。どうして、そんなすごい能力の持ち主が地下牢の看守なんかしているわけ?それに、よく見たらいい男じゃない。あなた今、シングル?』

「ちょ、お姉さま!ジャックはダメよ!」

『あら、どぉして?』


右耳元小声『いいじゃない。ねぇ。せっかく3年ぶりに目覚めた私の火照った体をぉ、あなたみたいなタフガイにぃ、預けさせてちょうだいなぁ。ミーチャみたいな色気のない子供は放っておいて一緒に楽しみましょうよぉ』

(豊満な胸をジャックの右腕に押し付けるユティア)


「そんな、お姉さまひどいです。私だって、本気を出せば・・・」


左耳小声「ジャック。あなた、本当はすごい戦士だったのね。見直したわ。もう私、自分の気持ちを押し殺したりなんてしないわ。私の全てをあなたに捧げるわ。だから、お願い、私の方を向いてちょうだい」

(ジャックの左手を取り、自分の胸へと重ねるミーチャ)


右耳元小声『んー。このたくましい腕。胸筋。あなたに抱かれることを想像するとゾクゾクするわっ。早速今夜、私の部屋へ来てちょうだい。朝まで寝かせないわよぉ』


左耳小声「ダメよジャック。今夜もこの先もずっと私といなさい。そして、私があなたにたっぷり奉仕してあげる。だから、お願い、ね。」


『ふっ、ふっ、ふっ。ミーちゃんはホントに分かりやすくてかわいい子ね。うふっ』

「?!え?お姉さま、私をからかっていたの?んもー!お姉さまのいじわる!でも、お帰りなさい。本当にうれしいわ。お姉さまが3年ぶりに戻られたから。今宵は宴よーー!!」


(ユティア姫生還祝賀王宮晩餐会 ガヤガヤ)


「ジャック!あんたもう、姫様という言い方をやめなさい!ミーチャでいいわよ。これは命令よ!それから、あの地下牢で、私を取るか、魔女を取るかって時に、どちらを選ぶつもりだったわけ?答えなさいよ!

 ちょっと!ジャック!どこ行くのよ!まだ料理がたくさん来るわよ!トイレ?わかったわよ。早く戻りなさいよね。料理も私の気持ちも冷めないうちにね!」


(トイレで用を足して出ると、誰もいないはずの退室した個室から笑い声が聞こえる)


『くっくっくっくっ・・・・・くさっ!』




おわり




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高飛車ツンデレ姫vs獄囚ヤンデレ魔女【地下牢舌マッチ】 団田図 @dandenzu

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