第3話 名案

「あーもうっ。切羽詰まると何も思い浮かばないわ。何かいい物でも持ってなかったかしら」

(ミーチャ姫が首から下げていたポーチの中を漁る音 ガサガサ)


小声「おっ!こんなものが入っていたなんて。何とかなるかもしれないわね」


『何をさっきからごちゃごちゃと独り言を言っておるのじゃ?選択肢は一つしかなかろうに。ふはっはっはっ。はよう、ワラワをここから出せ。はよう』

(尖った爪を舐めてさらに磨きをかける ジュルジュル)


「待たせたわね。決めたわ!やっぱりあなたは解放せず、処刑されてもらうわ」

『なっ?!おぬし、まさか、姉を殺すというのか?今から目の前で、3年ぶりに再会した姉が、息絶える姿を見守るというのか?』

「だって、仕方ないじゃない。そもそも、お城から一人で出て行って、危険な森の中へお花摘みへ行ったお姉さまの自業自得っていうか?そりゃあ私がおねだりしたから少しは責任感をじているけど?結局自分の意志で行ったわけだし。そういうことで、やるなら一思いにやっちゃってちょうだいよ」


『そぉ~、ソチが血も涙もない冷酷な人間だったとは、、、読み間違えたか。くっ』


「あっ、でもさ、その前に、これをあなたにあげるわ」

(ミーチャ姫がポーチの中からガラスの小瓶を取り出して投げる シュッ)

(それを受け取る魔女ヴァルボ バチッ)

『な、何じゃ?これは?』


「クランベリー酒よ。お姉さまが大好きだったものよ。私もいつも持ち歩いて飲んでるの。だって、こんな平和な世の中なんてつまらないから、酔っ払うことくらいしか楽しみがないのよね。良かったら、お姉さまの為に飲んであげてちょうだい。それに、さっきはあなたに、ちょっと言い過ぎちゃったと思っているのよ。せめてものお詫びの印として、大変高価でおいしくて貴重なお酒を飲んで、死への恐怖を和らいでほしいの」


『ん?急にやさしくするなど怪しいな』

「え?えっ?そ、そんなことないわよ。私だってお姉さまと二度と会えなくなるのは悲しいわよ。だけどもう随分前に、お姉さまは行倒れとなったって判断されて葬儀もしちゃったし、心の準備というか後始末というか、そうゆう整理は終わってるからさ。それに、あなたにも魔女にならざるをえない事情があったろうしさ」

『まあよかろう。たとえ、毒が入っていたとしても、暗黒魔法を極めたワラワには効かぬからな』


(小瓶の栓を抜く ポンッ)

『ワラワも酒は好きでのう。どれ、飲んでみるか。

ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ?!

まったく酒の味などせぬではな、、、

うっ、、、あっ、、、くっ、、、

おぬし!一体ワラワに何を飲ませ、、、

あっ、、、』


「んんっんっ、ぎゃーはははは。引っ掛かったわね!あんたが今飲んだのは、聖水だったのよ!それも、建国以来の歴代大神官様が継ぎ足し継ぎ足しでご加護を与えた、王族にしか配られていない特製謹製秘伝のタ、、、じゃなかった、秘伝の聖水だっだってわけ!ついさっき、ポーチに入れてたの思い出して、もしかしたらと思って、あんたを騙して飲ませてみたら、見事大当たり!お母さまが、ハンカチとティシュと聖水は常に持っておきなさいっていう教えを聞いといてよかったわぁ。あーマジ感謝マイマザー!そのまま、お姉さまの体の中でくたばりなさい!汚らわしい魔女め!」


『お、おのれぇー。小娘がぁーーー・・・、、、』

(吊り上がった目が戻り、優しい顔になっていく魔女ヴァルボ サー)

『え?こ、ここは?あ、あなたはもしや、、、』


「ユティアお姉さま?!そうです!私ですミーチャです!やったわ!魔女を倒したわ!それに、それに、お姉さまが戻られた!

 ジャック!何ぼさっとしてるのよ!早く結界を解いて鉄格子を開けなさいよね!」


(結界が解かれる バチッ)

(カギが外される ガチャ)

(開かれる鉄格子  ギーー)

(走るミーチャ カツカツカツ)

(ユティアへ抱きつく バサッ)

「ユティアお姉さま!どれだけこの日を待ち望んだか!もうわがまま言いません!おかえりなさいお姉さま!」


『・・・・くっくっくっ』

(目が吊り上がる魔女ヴァルボ サー)

(ミーチャ姫の後ろを取り、鋭い爪の切っ先を姫の首筋へ突き付ける魔女ヴァルボ キーン)

『はっはっはっ。ふはっはっはっ。ぶはっはっはっ。引っ掛かったのはソチの方じゃぁー!ワラワに聖水など効かぬわー!騙したつもりが、騙されおった姫!ぶはっはっはっ。笑いが止まらぬわ。ぶはっはっはっ』


「ど、どういうことなの!悪魔も魔女も似たようなものでしょ!あんた、倒されるフリをしてたってこと?卑怯よ!ちょっと!ジャック!あんた早く私を助けなさいよ!」

『おっと動くでないジャック。一歩でも動いたら姫の命はないぞ。それと、ワラワを悪魔のような下等な生きものと同じにするでない。ワラワは、あくまで人間が進化した姿じゃから、聖水など効かぬのだ。おっと、今の表現はややこしかったな。ふはっはっはっ。さぁ姫よ、またしても形成が逆転したな。それに結界を外し、牢のカギまで開けてくれるとは、先ほどよりもワラワが有利か?今すぐにでも極大暗黒魔法で始末してやってもいいが、少し遊んでいくとするか』


「ぐぬぬぬぬ。またしてもピンチに。んっもう!ジャックがバカみたいに結界もカギも外しちゃうからこんなことになったんじゃない!責任取りなさいよね!ぐぬぬぬぬ」

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