Mission 02⑦

 王立空軍のエースに対してまともにドッグファイトを挑んでも勝てないが、そもそも相手にはを仕掛けるつもりも無かった。たとえ実弾が発射されなくても、相手はこちらを殺す気で挑んできたのだ。


 エレナは首を巡らして仮想敵機を睨む。相手はこちらと同じ旋回性能を持っている。このまま逃げ続けていても埒が明かない。


 仮想敵機がこちらの機体をロックオンする。受動電子戦システムが作動し、自動でチャフとフレアが散布される。そのタイミングに合わせてエレナは左に切り返すが、仮想敵機はそれを予測していたようだ。一瞬早く旋回方向を変え、グッと距離を縮めてきた。


「こっちの動きは全てお見通しってことか……ならば!」


 咄嗟の思い付きで、エレナは傍に浮かんでいた雲に飛び込む。あのヘドウィグ空軍機と同じ戦法だ。


 視界を奪われ、レーダーの探知性能も下がる。エレナは頭の中で仮想敵機の動きを予想した。おそらく、雲に飛び込むことはせず、周囲を旋回して様子を窺うはずだ。そこへ雲の中から飛び出して攻撃を仕掛ければ、回避は難しいだろう。


「ここだ!」


 エレナは勘でタイミングを見極め、雲の外に出る。青い海の上で目立つ緑色の機体が見えた。


「大当たり!」


 エレナは仮想敵機の真横から機関砲の射撃を加える。しかし、仮想敵機はラダーをエアブレーキの代わりにして急減速し、ストンと真下に落ちるようにしてエレナの射撃を回避した。攻撃に失敗したエレナは一旦距離を取り、まだ速度を回復できていない相手に再び攻撃を仕掛ける。


 仮想敵機はエレナの機体に後ろを取られたことに気付くと、アフターバーナーを吹かして加速し、旋回の準備を始める。エレナは相手が左にターンすると予想した。


 仮想敵機が機体を左に傾けて回避機動に移る。エレナの予想は当たった。だが、相手の動きは鋭さに欠ける気がした。


「まさか⁉」


 エレナは背中に冷たい殺気を感じ、後ろを振り返る。そこにはもう一機の仮想敵機の姿があった。


 仮想敵機がミサイルを発射。喚き散らすミサイルアラートを聴きながらエレナは回避を試みるが、距離が近すぎた。仮想空間上では一瞬でミサイルがエンジンを破壊し、エレナの機体は撃墜と判定される。


〈筋は悪くなかったんだけどね、残念〉


 無線から女性の声が聞こえる。オードリー中尉の声だ。


 マンフレート隊は各個撃破に見せかけて、一機が囮となり、もう一機がレーダーの死角から接近していたのだ。つい個別に攻撃を仕掛けてくるものと思い込んでいたエレナは、もう一機の動きから注意を逸らしてしまったのだ。


 エレナはハポーザ隊に合流し、残ったフリッツの戦いを見守る。一対二で勝てるはずもなく、彼も時間を置かずに撃墜された。

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