Mission 02 侵略者

Mission 02①

「ねぇ、フリッツ? これどう思う?」


 エレナは反対側に座ったフリッツに今朝の新聞を見せる。フリッツは昼食を食べる手を止めて、エレナから受け取った新聞の記事にざっと目を通した。


「一昨日のゾンターク橋爆破事件について、複数の犯罪組織が声明を発表しているのか。環境テロ組織からカルト教団まで、色々あるな……」

「おかしいと思わない? こういう時って、疑われないように大人しくしてるはずなのに、どの組織も積極的に関与をほのめかしてる……いや、主張してるなんて」


 エレナの問いにフリッツは「いや、そうとも言えないんじゃないか?」と返す。


「逮捕された犯人が『思想に共感した』と供述すれば、最近のテロ組織はそいつを組織の一員として認めてしまう。組織という枠組みが曖昧で、思想こそが本体とも言えるかもな……」

「でも、まだ犯人が誰なのかは発表されてないんだよ?」


 ゾンターク橋を破壊したのがヘドウィグ空軍の戦闘機だったということは、エレナたちと一部の軍関係者以外は知るはずがない。エレナが撃墜した機体の残骸もまだ回収されておらず、本当にヘドウィグ空軍の所属機だったのかも怪しかった。


「発表されてないからこそ、自分たちの手柄にしたいんだろうよ。あと、多分いくつかの声明は情報を混乱させるために軍が流したフェイクだぜ?」

「どういうこと?」


 エレナが聞き返すと、フリッツは新聞記事に記された「真救教」というカルト教団の名前を示す。


「例えば、この宗教団体は『世界の終末が来る前に人々を恐怖と苦痛から解放する』とか言って何度かテロを起こしてるが、今回の事件で死傷者は出ていない。人が死ななきゃ救済の意味がないだろ?」

「たしかに……」

「それに、今までは毒ガスとか薬物を使って、血の出ない方法でテロを行っていた。爆弾や銃を使う殺し方はこいつらの手口じゃない。たぶん、警察はもう気付いてるだろうぜ?」


 フリッツは新聞の記事をエレナに返すと、またマッシュポテトを口に運び始めた。


 エレナはもう一度新聞を読み返し、記事の中にヘドウィグ人の民族主義団体の名前がないか調べる。関与を疑う警察関係者の証言は記されていたが、声明を出したという内容は無かった。


 しかし、SNS上ではヘドウィグ人が事件に関与したとする投稿が溢れていた。中にはヘドウィグ人を名乗るユーザーが犯人を称賛する投稿もあった。


 エレナはヘドウィグ人が犯人だと決めつけられたくないと思ったが、この目でヘドウィグの国籍マークを付けた戦闘機を見てしまったため、それらの投稿を否定することが出来なかった。事実を公表してもしなくても、ヘドウィグ人に対するヘイトスピーチが投稿される……それが悔しかった。


「どうしたよ、難しい顔して?」


 フリッツに指摘され、エレナは自分が無意識に眉間にしわを寄せていたことに気付く。


「ごめん……何でもない……」

「何でもない訳ないだろ? 俺だって、ノルトグライフとヘドウィグが戦争を始めるなんてまっぴらだ」

「けど、私が撃墜した戦闘機はヘドウィグ空軍機だった……」

「だからこそ、いたずらに敵愾心を煽るようなことは発表できないんじゃないか? 軍の情報機関は今頃、向こうで何があったのかシャカリキになって調べてるはずだぜ。俺たち戦闘機乗りに出来ることは、もしもの時のために自分の身体と機体のコンディションを万全の状態にしておくことだ」

「もしもの時……」


 エレナはグッと拳を握りしめる。


「ウジウジしてないで、食える時に食っとけ!」


 そう言って、フリッツは残りのマッシュポテトをかきこむ。エレナも難しい事を考えすぎて腹が減ったので、チーズとハムを挟んだ黒パンにかぶりついた。

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