ふたつの恋

 この恋自体は、別におかしなことではない。

 弦巻先輩は女子にとても人気がある。でも容姿や成績、運動だけではなく、こうして植物でさえ気遣ったりするようなひとだから好かれるのだ。

 今、彼女はいないようだったけれど、だからといってこんな平凡で、しかも少し話す機会があっただけの私が弦巻先輩に好きになってもらえるかは、だいぶ謎だった。

 そこは私の自信があまりない部分かもしれないけれど、とにかくそう思った。

 それより親友のことが気になっていた。

 亜沙は女子サッカー部だ。

 同じサッカー部でも、女子と男子は普段別々の活動。でも時々、合同練習をする機会があって、そのとき亜沙はよく弦巻先輩と話していたようだった。

 私にも「今日、話せちゃったんだ!」と話してくれたことが何度もある。

 そして私はそのときから薄々思っていたのだ。

 亜沙はきっと弦巻先輩が好きなんだろうな、と。

 そう感じてしまっては「実は弦巻先輩が好きになったみたいなの」なんてとても言い出せなかった。

 だってそうすれば亜沙は困ってしまうだろう。

 優しい子だから、嫌だとは思わないかもしれない。

 明るく「そうなんだ! 頑張ってよ!」と言ってくれるかもしれない。

 でも私が何度も亜沙から話を聞いていた以上、こんなことはやはり良くない。

 だから私は話すのをやめてしまった。

 心の中だけで、誰にも言わずに、弦巻先輩を好きだと思っていた。

 ただ……。

 もしあのとき、亜沙に話していたら。

 なにか変わったのかもしれない。

 亜沙と弦巻先輩が付き合うことになって、こんなに胸が痛まなかったかもしれない。

 そう思ってしまうのだ。



 二人が付き合って数週間。

 亜沙はとても幸せそうだった。

 交際は周りにもすぐ明らかになった。

 ほかの女子にねたまれたりしないかな、と心配になったけれど、それはなかった。

 弦巻先輩が「俺の彼女だから、変なことしないでくれよ」とか言ったのかもしれない。

 そう想像して、馬鹿な私はまた胸が痛むのだった。

 そんな気持ちががらりと変わってしまう事件が起こったのは、ある放課後のことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る