恋のはじまり

「だいぶ元気になったな!」

 それから数週間。

 弦巻先輩は支柱が外れて数日経った木を見て、あの明るい顔で笑った。

 私は何故かどきどきしてしながら同意する。

「はい。再度の支柱は要らなさそうで良かったです」

 あの日、私が診た木。低めの植え込みにある一本は、確かに枝が折れそうだった。

 でも完全に折れてしまってはいない。

 私は少し考えて「支柱をつけましょうか」と言った。

 支えをつければ、植物自体が再生する手助けになるだろうと思った。それに歪まずに伸びるはずだ。

 それは正解だった。一週間経つ頃には、折れそうだったところは腐ったり枯れたりせずに、人間で言うならかさぶたができたような状態になっていた。

 数日に一回、一緒に様子を見に来ていたけれど、弦巻先輩はそのとき、とても嬉しそうな顔をしてくれたのだ。

「ほんとにありがとう! 羽月さんのおかげだよ」

 にこっと言われて、私はまたどきどきしてしまった。

 世話をする都合で、私の名前も知られたのだ。今はこうして呼んでくれる。

 まさかあの弦巻先輩と話せるように、いや、一緒に過ごせるようになるなんて思わなかった。

「いえ……、弦巻先輩がこの木を大切にしてくれたからです」

 どきどきしながらもそう言う。

 実際、そうだろう。私は弦巻先輩に呼ばれるまで、この木が傷んでいたなんてちっとも知らなかったのだから。

 なのに弦巻先輩は首を振る。

「いいや、羽月さんが手伝ってくれなかったら、どうしたらいいのかもわからなくて、俺はこの木が枯れちゃうのを見てるだけだったと思うんだ。だから羽月さんのおかげだよ」

 そう言った弦巻先輩の笑顔は、嬉しそうで、でもとても優し気で……。

 そのとき私は自覚したのだ。

 このひとのことが好きになってしまったかもしれない、と。

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