好きなひとは親友と

 私は羽月はつき ひまり。中学二年生。

 特別目立ったタイプじゃない。勉強も運動も普通だし、見た目だって茶色のボブヘアに焦げ茶の瞳をした、美人でもブサイクでもない普通の女の子。

 園芸部で花の世話をするのが趣味で特技であるくらい。それに関しては「お花に優しいね」とか「育てるのがうまいね」とか褒められるから良いところだと思うけど、でもやっぱり美人とか華やかではない。

 それを少し残念に思ってしまうことがたまにある。

 ここ数ヵ月のことだけど、その『たまに』が少しずつ増えてきている気がするのは知らないふりだ。

 クラスには小学校から一緒の親友がいる。

 さっき机にやってきた長津ながつ 亜沙。つやつやした黒髪を背中に流して、ちょっとたれ目に、泣きぼくろがある優しい目元をした亜沙は、私とはまったく違って明らかに美人だ。

 性格だっていい。友達に優しいし、初めての相手にも気軽に話しかけて、すぐ仲良くなれる。

 部活は女子サッカー部で、運動もできる。二年生なのに、もう時々試合にも出ているくらいだ。

 亜沙自身が少し気にしていることといえば、お父さんがいない母子家庭ということだけど、そんなことは亜沙自身の評価という点に関しては、なにも関係ないだろう。

 たくさん魅力的な部分を持っている亜沙だから。

 三年生の弦巻つるまき 薫先輩に告白されてもなにもおかしくないと思う。

 サッカー部のエースで、学校一のイケメンと言われていて、なのにちっとも鼻にかけず、社交的で誰にでも明るく話しかけるような素敵なひとが彼氏でも、不釣り合いどころか、お似合いのカップルであるときっと言える。

 でも一週間前のこと。

 亜沙から「実は薫先輩と付き合うことになって……」と恥ずかしそうに言われたとき、私の胸の中は凍り付いてしまったのだ。

 数秒、どう言っていいのかわからなかった。

 いや、言うべきことはわかる。

「おめでとう」とか「良かったね」とかだ。それを明るい顔で言えばいい。

 でもそんな言葉、するっと出てきてくれなかった。

 だってそんなこと、心にもない。口に出てくるはずもないだろう。

 なのにこの状況ではほかに言えることはない。

 努力した。

 そりゃあもう、定期テストの勉強より頑張った。

 頬を上げて、笑みを作った。震えそうな喉を押さえつけて、声を出した。

「おめでとう。良かったじゃない」

 心にもない、綺麗とはほど遠い言葉だったのに、亜沙はとても嬉しそうに笑った。

「ありがとう」

 その反応を見て、私は安心してしまった。

 ああ、気付かれなかったのだ、と。

 ずるいことに、そう思って安心したのだ。

 私が弦巻先輩を好きだったことなんて、知られていなかったし、気付かれなかったのだ。

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