第2話
燕たちにとって我が家の玄関口は鬼門だった。
これまでにも、卵が落ちて割れてしまったり、蛇らしきものに卵を食われてしまったり、散乱した羽だけを残して燕の親子がみんないなくなってしまっていたりといった悲劇に見舞われていたのである。そのたびに妻は「かわいそうなことをしたわ」と言っていた。
一昨年、まだ燕が訪れる前の巣へアシナガバチが大量に集まったことがあった。私は雨合羽にゴーグルといういでたちで、ハッカ油を薄めた液体を巣に噴霧して蜂を追い払い、ついでに、悲劇の舞台である巣そのものを箒の柄でつついて落とした。妻には、「古くなった巣は衛生的ではないし、ハッカの臭いは燕も嫌うだろうから」と説明した。妻は「燕はもうこないのかしら」と首を傾げていた。
その春、燕は同じ場所に巣をかけた。
「燕たちの間で、我が家の玄関口は危険であるという噂が広まらない以上、燕が来るのは仕方がないね」と、私は妻に言った。妻は、燕がせっせと巣作りをする様子を見てうれしそうにしていた。
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