燕の子
新出既出
第1話
「あなた」
と、玄関口から妻に呼ばれ寝間着のまま出ていくと妻がうずくまっており、その前に、燕の子が一羽落ちていた。
「わたしでは届かないの」
妻の傍らには丸椅子が置いてある。私は燕の巣を見上げ、自分がその椅子に乗れば、巣になんとか手が届くだろうと見積もった。
落ちていた燕の子の、まだ羽根も生えていない体をそっと掴んで掌にのせると、驚くほどの温もりと重さとを感じた。グラグラする椅子へ慎重に乗って腕を伸ばすと、巣の中にいる燕の子たちが一斉に鳴き始めた。私は落ちていた燕の子を、大きな口を真っ赤に開けた燕の子たちの背後に戻してやった。そして、なにも、母の日に落ちなくったっていいじゃないかと思いながら、努めて心配そうな表情を作って、
「弱っているから、また落ちるかもしれないよ」と妻に告げた。妻は先ほどまで燕の子の落ちていた辺りを見たまま、「わたしも気をつけてみるわ」と言った。
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