第729話 年末だと分かってはいるけれど…。

地域の急性期医療を担う病院では、年末は「空床」を作ることに一生懸命になる。というのも、年末年始の緊急入院を受け入れるベッドを用意しなければならないからだ。


そういう点では、新年の仕事始めの朝は大変だったことを思い出す。私の修業していた病院では、身分としては「後期研修医」ではあるものの、後期研修医後半は完全に「戦力」とみなされていた。もちろん、superviseしてくださる指導医はいるものの、ほぼ独立した「一人の医師」として、病棟や外来で仕事をしていた。私も最後の2年間(正確には1年と、半年空けて残りの半年)を「内科」全体の新入院振り分けを担当していた。やはり悩ましいのは仕事始めで、「振り分けの済んでいない」新入院患者さんが100人近く入院していて、振り分けに本当に苦労したことを覚えている。


入院病棟で利益を出すためには、入院充足率90%程度は必要である。修業していた病院は400床程度の病院であったが、病院の正月休み(12/31~1/3)で100人近くを「内科」だけで受け入れているので、他科の新入院の患者さんも考えると、年末にはかなりの患者さんを「退院」させなければならない。


「自宅に退院」できる人は、年末であろうとなかろうと、病状が落ち着けばさっさと退院してもらっていた。患者さんの中には、「大安」の日でないと退院は嫌だ、という方もおられ、私は可能な限りその希望には沿うことにしていたが、「アメリカには『大安』なんてものは無いんだ。日本人の幻想だ」と言って「却下」される先生もいた。それはそれで正しいと思っている。


さて、そんなわけで、急性期病院は「たくさん退院させて、空きベッドを作りたい」でも、「自宅退院できない人」のほうが、自宅退院できる人よりも圧倒的に(内科では)多い。となれば、受け入れ先は、当院のような「亜急性病院」となることが圧倒的である。


そんなわけで、年末最終週は目の回るような忙しさであった。入院受け入れの窓口になる地域連携室には、個人的なお願いとして、「手間のかかりそうな人をギリギリに入院させるのはご勘弁願いたい」と要望を伝えていたが、なかなかそううまくもいかない。


精神的不調もあり、大変な年末であった。


明日が仕事始め。どのようなことになっているのか、恐ろしいことである。

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