第570話 「あってはならないこと」はないだろう。

香川県三豊市の「市立みとよ市民病院」で、COVID-19 陽性の看護師を勤務に就かせた、という事がニュースになっている。


報道では、三豊市の報告では、8/5 準夜勤を担当する看護師の一人が、出勤前のCOVID-19検査を行なったところ、陽性反応が出た、とのことだ。


ほとんどの病院で看護師は不足しており、しかも、準夜勤(16:00~25:00が多い。同院は24:45まで)や、夜勤(0:00~9:00)の勤務の人を急に探すのはとても難しい。管理職が、と言われても、大きな病院ならベッドコントロールのために「管理師長」という形で看護師長がそれぞれ交代で準夜勤~夜勤帯に仕事をしている。場合によっては、フリーの看護師、という形で応援に入ることもある。


病院側は懸命に人を探したがどうしても見つからなかったそうだ。そこで止むなく、COVID-19陽性の看護師さんを、COVID-19感染者ゾーンでの勤務とした、という事である。


このことに対して、三豊市側は「医療機関としてあってはならないこと。厳正に対処する」としている、とのことらしい。


このニュースを見て、ガックリした。いや、本当にガックリした。準夜勤、あるいは夜勤帯はただでさえ、少ないケアスタッフでたくさんの患者さんを看ているのである。おそらく現場は、「あと一人、二人人員を増やしてほしい」と思っているのが正直なところだろう。しかも「市民病院」である。おそらく地域の急性期医療を支えている病院であろうと容易に推測される。そんな病院で、欠員が出れば、それこそ入院患者さんの安全が確保できない、と言っても過言ではなかろう。


なので、「COVID-19に罹患している看護師さん」を「COVID-19感染者」の看護に携わってもらう事は、極めて現実的な対応だと思うのだが。患者さんは、現在COVID-19罹患中なので、看護師さんから感染することはない。一番問題になることは、スタッフ→患者さんへの感染なので、その一番の懸念は解決である。また、患者さん→医療スタッフへの感染も心配する必要がないのは、医療提供者側としてはありがたい。看護師さんが発熱など体調不良で「フーフー」言いながら働いていたならば、その点では問題かもしれないが、「何とか働けます!」という状態なら、現実的な最適解だろうと思うのだが。しかも、COVID-19感染者ゾーンに専従のスタッフがいれば、感染していない人を感染者ゾーンにいれ、感染のリスクにさらすこともない。


市は、何をもって「医療機関としてあってはならないこと」としているのだろうか?「COVID-19罹患者を医療機関で働かせること」が「あってはならない」というのであれば、「職員数」として予備力が足りない、という事であり、これは人事のことである。現場の人間が云々される話ではない。現場のスタッフは、当日代わりに準夜帯に仕事ができるスタッフを必死に探したわけである。それで「入れる人」がいないのならしょうがないのではないか?


現場が「危機的」な状況に直面し、その状況の中でベストと思われる「苦渋の選択」を取ったことに対して、「あってはならないこと」というとは、市側の「逃げ」の姿勢が見え見えである。


自身が感染しながら、同じCOVID-19の患者さんを看護した看護師さんに対して、「無理させました。ありがとう」と伝え、「このように医療機関は危機的な状況です」と市が発信する方が、よほど良い対応だと思うのだが。


とモヤモヤする次第である。

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