第242話 どの世界でも”Human Error”は深刻な問題を起こす

12/22 東京の将棋会館でB級1組10回戦 近藤誠也七段対千田翔太七段の対局が行われた。開始直後に、後手番となっていた千田七段が1手目を指してしまった。自分が後手なのに、先手と思い込んでしまったのである。残念なことに規定により千田七段の反則負け、となってしまった。


こういうものがまさしく“Human Error”なのである。将棋界の歴史では、今回に限らず、しばしば後手と先手を勘違いしてしまう、という事はあったらしい。あるいは、東京会場と大阪会場を勘違いして、という事もあったらしい。


振り返ってみれば、「なんでそんなことを」という事であるが、そのような勘違いをするのが人間、という生き物であり、何らかのシステムを作成する上では、このようなHuman Errorがあっても、人に危害が加わらないようなシステムとすることが重要、とされているわけである。


私が最初の大学の1年生だったから、もう30年以上前のことになるが、必修科目で「化学実験」を受講しなければならなかった。大学内で販売されているその科目のテキストを購入すると、順番に実習で行なうべき実験に必要な物品、薬剤と実験手順が記載されており、授業はその実験レポートを提出する、という授業であった。実験の目的や考察などはテキストには書いておらず、そこを明らかにして体裁を整え、レポートを正しく書く、という事が授業の目的であったと思われる。


某日の授業、無機化学の実験で、もう詳細は忘れてしまったが、実験の途中で、サンプルにシアン化ナトリウムを加え、その後、金属イオンを加えて金属とシアンの錯体を作成し、そこに酸を加えて…、というステップがあった。実験開始から2時間くらい経ってからの作業で、私自身がぼんやりしていたため、実験前にはきっちり手順を押さえ、テキスト通りに実験を行なっていたのだが、シアン化ナトリウムを加えた後に金属イオンを加えるステップを読み飛ばしてしまった。そのまま酸をサンプルに加えたので、試験から「ポワッ、ポワッ」と酸を加えるたびに白い煙が上がったことを記憶している。「なんでだろう」と思いながら実験を進めていくが、最後のところで結果がテキストとは異なっていた。実験失敗である。


「なんでだろう??」と疲れた頭でもう一度最初から実験を始め、くだんのところで気が付いた。金属イオンを入れ忘れていたことに。


金属イオンを入れていないので、シアン基は錯体にはならずに存在していた。そこに酸を加えるので発生するのは「シアン化水素(青酸ガス)」である。「何だろう?」と思った煙はシアン化水素だった。思わずゾッとした。「何だろう?」と思って匂いを嗅いでいたら死んでいたかもしれない。実験規模が小さいのでごくわずかのシアン化水素しか発生せず、拡散で問題ないレベルに希釈されたことで何も起きなかったのだろう。


書いている手順を順に追っていき、一段飛ばして読んでしまう、これもよくあることだと思うのだが、その一段が命を分けるもの、という事もあるのである。これもやはりHuman Errorだと思う。


医療ミス、医療過誤の中でHuman Errorの占める割合は高いと思われる。しかし、人間が人間である以上、やはり避けられないものである。


今回、プロ棋士の中で、このようなミスが起きたので、ニュースになったのだろう。Human Errorへの対策は難しいものであると改めて認識した。

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