第241話 私が指導医なら、厳しく𠮟ります!
愛知県の某病院の20代研修医が、大学病院への患者さんの搬送に付き添い、搬送後の帰路に救急車に同乗させてもらい、その際に「駅前に降ろしてほしい」と研修医が救急隊に希望したそうである。救急隊は「困難です」と拒否したが、再度強く希望されたため、その研修医を仕方なく希望の駅に送り届けた、という事例があった、とニュースになっていた。
15年ほど前までは、救急隊の搬送に同乗して遠方の病院に行った場合には、お願いすれば、自分の病院まで乗せてくれることはしばしばあったのだが、10年ほど前からは、当方の地域では、「医師を搬送元の医療機関に送り届けることはしない」ということが徹底されている。もちろん、「医師を搬送元の医療機関に送り届けること」は当然ながら救急隊の業務ではない。例えば、他市の病院に患者さんを搬送し、自市に戻る途中で救急搬送の依頼が入ることはある。その場合は速やかに対応できる救急車が搬送に向かうので、消防署に戻る予定を変更し、患者さんのいる現場に速やかに向かうのが救急隊の仕事である。「医師をもとの病院に送る」のはあくまで救急隊の『ご厚意』である。
なので、というわけではないが、診療所で仕事をしていた時は、常にポケットに財布を入れていた。しばしば重症の患者さんが診療所に来院し、大学病院や、他市の総合病院への搬送に付き添うことが多かったからである。急変時に対応できるよう、そして、紹介状に書ききれなかった情報を搬送先の担当医に伝えるために同乗するわけである。搬送先の救急外来の医師に引継ぎをすると、救急隊は「ではこれで」と救急車に戻っていく。自分は自分で帰らないとならないが、白衣で聴診器や、時にはシリンジポンプ(少量の薬剤を注入する機械)などを持ったまま公共交通機関に乗れるほど強い心を持っているわけではない(強行すれば「コスプレ?」と思われるかもしれないな?)。なので、常にタクシーを利用して帰っていた。遠方の病院に搬送しているわけで、タクシー代もそれなりにかかる。深夜の搬送なら、タクシーそのものが捕まらない。
診療所までタクシーで戻ると一旦は自分の財布からタクシー代を払い、領収書をもらう。そして、経理に領収書と、搬送した患者さんの名前、搬送先の病院を記載し提出、後日タクシー代が戻ってくる、という形になっていた。救急隊が乗せて帰ってくれる、というのは、診療所に移ってから1,2年の間で、そのころにルールの引き締めがあったのだろうと思っている。
実際問題として、前述の通り、戻る途中で方向転換し、患者さんのところに向かわなければならないので、「同乗した医師をもとの医療機関に送り返す」ということは不適切だと私も思う。ましてや、「元の医療機関」ではなく、「帰路の近くにある駅」に送ってほしい、ということは「救急隊の仕事」を何だと捉えているのだろう、と不快に感じた。当事者となった救急隊はなおさら不快だったであろう。
記事では
<以下引用>
病院側の聞き取りに研修医は、プライベートで友人と食事に行く予定で「救急隊には快諾してもらった」と話しているという。上司に当たる医師は事前に研修医に対し、勤務時間外だったことも考慮し、途中下車について「可能な範囲で途中下車できるかどうか救急隊に聞いてみては」と話したという。
<引用終わり>
研修医も、上司にあたる医師も「救急隊の業務」を真剣に考えていないように思う。救急隊は、患者さんを搬送し終えたら、すぐ、次の搬送依頼を受ける準備をしている。「医師を病院に送り返す」ということをしていると、その最中に搬送依頼が入っても対応できない(かつて希望すれば医師を医療機関に送り返してくれていた時代のことだが、救急車に出動依頼が入り、現場が比較的その時走っていた場所から近い場所だったのだが、私を乗せていたために他の救急隊が向かうことになったことがあったように記憶している)。
ましてや、プライベートなことで「駅前に送ってほしい」とは、自分を何だと思っているのだろうか??
仮に私がこの研修医の指導医なら、「救急隊が医師をもとの病院に運んでくれるのは救急隊の『ご厚意』であること、そのご厚意を『ご厚意』と取るどころか、タクシー代わりのように「駅前に」なんて言うのは大変厚かましいことである」と注意するだろう。
本当によろしくないことであると思った次第である。
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