第226話 なるほど、"Suicide Door"なわけだ。

最近の車ではめったに見ることがないが、クラシックカー、そして庶民には手が出ないロールスロイスなどでは、車のドアが、観音開きのように開くものがある。観音開きに開くので、後席に座っている人は、例えば、ドレスなどを着ていても乗り降りがしやすい利点がある。しばらく前に、初代クラウンを模して、トヨタが限定発売した自動車「オリジン」も確か、観音開きドアを採用していたように記憶している。観音開きドアには、一種のクラシカルなイメージがあるのは確かである。


一時、ケーブルテレビで放送されている「名車再生 クラシックカーディーラーズ」という番組にはまっていたことがあった。1950年代のアメリカン・クラシックカーには比較的この「観音開き」ドアのものが多いのだが、このような形態のドアを”Suicide Door”(Suicide:自殺)と呼んでいた。何とも不穏当な名前ではあるが、あまり詳しくは調べなかった。


最近、レントゲン検診車が高速道路を走行中、同乗していた検査技師さんが車から転落し死亡する、という事故があった。事故の報道を聞いたときには、何とも不可解だ、と思っていた。めったにないことではあるが、恋人同士のドライブ中なら、二人がけんかをして、助手席に乗っている方が走行中にもかかわらず、ドアを開けて外に飛び出る、という状況はあるかもしれない。しかしながら、レントゲン検診車である。何か運転中に喧嘩でもして、怒り狂って高速で走っている車から飛び降りる、なんてことがあるのかなぁ??と疑問に思っていた。


今朝のラジオニュース、上記の事故について取り上げていた。なんでも、半ドアになっていたドアを直そうとした途端、人が車から転げ落ちたと。ドアのヒンジ(取り付け部分)が普通のドアとは逆向きになっていたのが原因だとのこと。ちょうど寝起きでラジオを聞いていたので、初めは頭が回っておらず、わけがわからなかったのだが、目が覚めてくるにつれ、「????…!!」と事態が呑み込めた。


一般的に自動車は進行方向の前向きにドアのヒンジがついている。なので、走行中にドアを開けようとしても、前方から吹く風にドアが押されて、ドアが開きにくくなっている。それとは逆にヒンジが後ろについているドアは、走行中にドアを開けようとすると、前方から吹く風にあおられて、ドアが一気に開いてしまう。なので、油断すると急激に開くドアに引っ張られてドアを開けた人がバランスを崩してしまい、車外に落っこちてしまう。今回の検診車の事故はそういう事故だった、というニュースだった。


ドアのヒンジが後方についているドア、まさしくあの「観音開き」ドアの後方ドアである。なるほど、「観音開きドア」が”Suicide Door”と呼ばれる理由、ようやくわかった。


実際にその後、Wikiで調べると、予想通りであった。


検診車だから、健診の動線をよくしようとして、ドアがそのような作りになっていたのかもしれない。半ドアを戻そうとした技師さんは突然強い力でドアに引っ張られてバランスを崩して転落したんだろう。とても残念な事故である。”Suicide Door”、名前の通り、恐ろしいドアだった。

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