第227話 年取ったなぁ

先に書いたように、昨日、両親がうちに顔を出してくれた。医学生時代、「恩師のもとで仕事がしたい」というプラスの気持ち、「方言の細やかなニュアンスが理解できないので、この地域では医療ができない」というマイナスの気持ちを抱えて、出身大学の地を離れ、生まれ故郷の地域に戻ってきたのだが、諸般の事情で、私が恩師のおられるかかりつけ診療所に戻る前に、両親がこの地を離れてしまった。これまた諸般の事情で弟たちもこの地を離れて、両親のそばで住んでいるので、わざわざ帰ってきたのに、帰ってきたら家族は離れてしまった、という状態になってしまった。新幹線の距離で離れているので、なかなか顔を見せるのも難しい。恩師の診療所に勤めていた時は、定期通院と、こちらの地域(いわゆる地元)でのこまごました用事を兼ねて、数か月に一度、診療所に受診し、顔を合わせていたが、診療所を退職したこと、両親も往復がつらくなってきたこともあり、現在は地元のクリニックでお世話になっており、本当に数年ぶりに顔を合わせた。


久しぶりに両親に会って、感じたことは「年を取ったなぁ」ということである。もちろん、私も頭が薄くなったり、老眼が進んだりと年を感じることが増えているので当たり前のことではあるのだが、実際に親が年を取っているのを実感すると、何とも言えない気持ちになる。


若いころはカーレースにも参加し、4トントラックを縦横無尽に走らせ、トラックを入れていくと両側の隙間数センチ、という道幅のところにもスムーズにトラックをバックさせていた継父(大学時代、長期の休みは一緒に働いていたので、その腕はよく知っている)、車の話をすると、「わし、車に乗っていたら、4つの車輪の位置と車の重心、どこに来ているか手に取るようにわかるよ」といい、免許取りたての私の助手席に乗り、運転の仕方を指導し、一度、前輪を溝に脱輪させたときは、見事な操作で車輪を持ち上げてくれた継父であったが、昨日は我が家の車庫に軽自動車を止めようとして、隣のお宅との塀に車をぶつけそうになり、とっても焦った。「ストップ・ストップ」とサインを出しても止まってくれない。慌てて車のボディを叩き、「このままやったら塀を壊してしまう。運転変わろうか?」と声をかけた。継父も状況を理解したのか、「おお、危ない危ない、やり直すわ」と言って、今度はうまく駐車場に止めてくれたが、結構心配になった。


母は、母方の祖母に瓜二つになってきた。喜寿が近いのでしょうがないが、明らかに「おばあさん」の顔になっていた。継父も頭はさらに薄くなり、顔のしわも増えてきた。継父は夏に「古希」のお祝いを渡したところだ。継父と初めて会ったとき、継父は30代前半だったはず。年を取ったものである。


そう遠くない未来に来るであろう、両親の「介護」などについても少し話をした。


う~ん、「光陰矢の如し」である。多分私もあっという間に両親のように年を取るのだろう、と思った。


母親に「喜寿」のお祝い、何が欲しい?と聞いたが、「う~ん、今特に欲しいものはないわ。みんな健康で過ごしているし、それなりに楽しく過ごしていて幸せやし、別に何もいらんなぁ」とのこと。若いころから父の糖尿病で苦労し、父を亡くした後、継父との生活は幸せだったであろうが、お金の面ではずいぶん苦労しているはずである。子供たちも成人して、いま、穏やかな生活を幸せに過ごせているのであれば、それが一番いいことだなあ、と思った次第である。


ただ、継父の運転免許所、遠くない未来に取り上げなければならないのは気が重いな。近くで住んでいる弟も、継父の運転を見ているはずなので、自動車整備士である弟が、一番継父の衰えを自覚しているであろう。弟が継父の運転免許を取り上げようとするときには、私も応援しよう。

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