第215話 「無意識型民主主義」という恐ろしさ

日曜日のNHKラジオでは朝に「著者に聞きたい 本のツボ」というコーナーがある。話題の書籍について、その著者にインタビューを行なう、というコーナーである。今回は、「22世紀の民主主義」という書籍を出版された成田 悠輔氏が登場されていた。もちろん、この書籍についてのインタビューである。インタビューの最初の方は寝ぼけながら聞いていたので、不正確なところがあるのはお許しいただきたい。


21世紀に入り、国家の経済成長という視点で考えると、民主主義国家はいずれも極めて成長が鈍化しているとのこと。民主主義という制度そのものが疲弊していることをお話しされていた。また「民主主義」といえば、「選挙で代表を選ぶ」とイメージしがちであるが、「選挙で自分たちの代弁者を選ぶ」というシステムそのものにも問題があり、その問題はギリシア時代の民主主義の時点で指摘されていたそうである。いわく、「選挙という制度であれば、富裕層やエリート層が選ばれやすくなり、本当に多数である民衆の民意が反映されない不適切な形態である」とギリシア時代では考えられており、「市民によるくじ引き」で為政者を選択していた、とのことであった。


また、現在の民主主義形態では、政策の一つ一つに対して、少数派の意見が無視されやすく、本来「少数派」の意見であっても議論によって適切なものは吸い上げ、政治に反映していく、という民主主義の本義が失念された時代である、と指摘されていた。


氏は、現在の電脳システムに注視し、至る所に存在する監視カメラや隠しマイク、あるいは個人のウェアラブル端末を用いて、各個人の思想を集約し、我々の無意識のうちに我々の民意を集約し、政治に反映する「無意識的民主主義」を提案していた。


興味深いが恐ろしい視点である。我々には今後、無意識のうちにその思想までインターネットを介して回収され、政策に反映される未来が待っているのだろうか?その非常に多様な個々の思想を誰が、どのように集約し、政策に発展させるのだろうか?AIがその任に当たるか?ならば、そのAIのプログラム、あるいは学習次第で、どのような独裁も可能なのではないか?それは決して単純なバラ色ではないのではないか、と寝ぼけ眼で聞きながら、恐ろしくて目が覚めてしまった。


Simon & Gurfunkelの代表曲”Sound of Silence”の歌詞の最後のverseを思い出してしまった。


And the people bowed and prayed

To the neon God they made

And the sign flashed out its warning

in the words that it was forming

And the sign said “The words of the prophets

are written in the subway hall and tenement halls

And whispered in the sound of silence


「そして人々は頭を垂れて祈りをささげる

彼らが作ったネオンの神に。

ネオンサインは警告を発する

それ自身が作り出した言葉で


そのサインは伝えていた。

予言者の言葉は地下鉄の壁や安アパートの玄関に刻まれている

そして、静寂の音の中で囁かれている」


私たちは私たちの作った監視システムで自分たちの思考、思想を監視され、自分たちが作り出したAIの神に政策をゆだねる未来が待っているのだろうか?


原著を読んでいないので、単純にインタビューの感想だが、そんな恐ろしいことを思ってしまった。日曜日のまどろんだ雰囲気が一気に吹き飛んだ気がした。


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