第97話 お棺の中

ビートルズのデビュー前、いわゆる「ハンブルグ時代」のこと。毎日長時間、ステージの上で演奏し、ウケるためなら便座を首からかけ、成人していない(ジョンはどうだかわからないが、ポール、ジョージは明らかに未成年)のに、お酒やドラッグを飲んでガンガン演奏していたころ、ジョン・レノンのベッドは「お棺」だったとのこと。内張りがちゃんとしていて、寝心地はそれほど悪くはなかったらしい。


先日、義父が亡くなったのだが、喪主である妻のサポートとして、「葬儀をする側」として動いたのは初めての経験だった。普段、葬儀やお通夜に出席し、故人のお顔を拝見したり、棺の中にたくさんの花を入れてあげることはしばしばだったが、実際にお棺がどのようになっているのかは知らなかった。単純に「木の箱」だと思っていた。


義父は亡くなった当日に葬儀会館に入り、お寺さんの都合もついていなかったので、枕経代わりに私が枕元で読経を行なった。翌日、湯灌の儀を終え、納棺のお手伝いをした。お身体をお棺に入れようとしたとき、はじめてお棺の中を見たのだが、底は畳敷になっていた。

「お棺の中は畳が敷いてあるのですね」というと、納棺師の方が、「そうなんですよ」とのこと。初めて知った。


よく、「畳の上で死にたい」という言葉を聞くが、病院であれ、在宅であれ「畳の上」というのは難しい。介護をしようとすると、どうしてもベッドの方がご本人も介護者も楽なのである。それゆえ、どうしても「ベッドの上」で亡くなることが圧倒的に多い。


「畳の上で死にたい」=「自宅で死にたい」ということだと解釈し、在宅で医療・介護用ベッドを用意し、自宅で介護を受けている方は多く、その状態で「畳の上で…」という人は少ないのだが、もし今度、「ベッドは嫌。畳の上がいい!」と強弁する患者さんがいたら、「ベッドで過ごされる方が、ご本人も、介護されるご家族も楽でいいと思いますよ。それに、お棺に入ったら、ずっと「畳の上」ですから」と少しばかり黒いことを言ってしまいそうで自分が心配ではある(笑)。

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