第68話 お盆休み?なにそれ?おいしいの??

私が医師となってから、約20年になるが、私の勤務した医療機関はすべてお盆休みを取らない、暦通りの診療を行なっていた。


研修医時代を過ごした病院では、職員には1週間の夏季休暇が与えられるのだが、いわゆる「お盆」に休みを取られるのは部長クラスの先生方で、「取ってはいけない」というわけではないが、病院機能を考えるとお盆に休むことは難しい。夏休みを12月に取る、なんてことは珍しくもなかった。急性期病院であり、24時間365日患者さんを受け入れる病院だったので、お盆は関係なく、暦通りに通常外来、ERなどで働いていた。


後期研修を終え、次に勤務した診療所も、もともとの出発点が、「日曜や祝日、深夜に受診できる医療機関がない」状態を解消するためにできた診療所なので、その伝統を50年以上守り、有床診療所ではあるが24時間365日、診療所レベルで対応できる疾患については受け入れていた。もちろんお盆も通常の診察を行なっていた。入職したばかりの頃は、5日間の夏休みが与えられていたが、外来枠のことを考え、3週間に分けて2日、2日、1日と分散させて休んでいた。先生方も高齢で、マンパワーが足りなくなったため、退職前の数年間は、夏休みはとれなかった。


転職し、今の病院で勤務しているが、前職場と同様に、医療の薄い地域に作られた診療所から始まった病院なので、やはり同様にお盆も通常通りの外来を行なっている。今、こちらの病院もマンパワー不足なので、やはり夏休みは取れず、いつもと変わらず、ルーチンで仕事を行なっている。


そんなわけで、私にお盆休みがないので、家族もお盆休みがないのが当然、というスタンスで夏を過ごしている。まさしく、「お盆休み?なにそれ?おいしいの?」状態である。


COVID-19第7波は爆発的な感染の広がりを見せているが、政府は経済をまわしたいようで、行動制限がかかっていない。爆発的な感染の広がりで、医療従事者が感染したり、濃厚接触者になってしまい、臨床の現場は人手不足がさらに深刻化。なのに患者さんは爆発的に増えていて、4つの学会が合同で「軽症者はself-medication」と宣言を出す始末。


当院も、院内の構造上、通常の患者さんと発熱外来の患者さんの動線を分けることが難しいため、わずかなCOVID-19疑い患者さんにしか対応できないが、発熱外来に受診された方はほとんど(9割以上)が陽性、という状況である。


明日の新聞に載るのかもしれないが、沖縄がひどい流行状況であるのと同時に、観光で訪れた人が、沖縄で発症し、検査を受けても結果が出る前に飛行機で沖縄を離れてしまう、ということが頻繁に起こっているようである。


飛行機の空調システムがどうなっているのかはわからないが、少なくとも飛行中は密閉された空間となっているはずである。SARSウイルスが流行したときに、一人の患者さんから30人近くが感染した“super spreader”という現象が見られたが、その際も感染経路はホテルや飛行機の空調システムを介しての感染だったと記憶している。COVID-19のBA.5は実行再生産数がもともと麻疹と同程度の16、ケンタウルスと呼ばれるBA.2.75はBA.5の数倍の感染力があると言われているので、感染者が飛行機に乗ったとしたら、たとえ感染者が不織布マスクを着けていたとしても、周囲の患者さんに(どの程度かはわからないが)感染を広げることは明らかだと思われる。


子供たちの夏休み期間に入るころから、沖縄の医療機関がoverflowしかかっていたのはわかっていたであろう。離島の医療機関はoverflowしている、と報道されていたと記憶している。


そんな状況で、沖縄に行く人もどうかと思うし、症状が出現して、検査を受けたのに、結果が出る前に飛行機でトンズラしてしまい、その地域にも、飛行機同乗者にも感染を広げてしまう行動、本当にいかがなものか?と少し怒りを感じてしまう。


お盆休みだから旅行したかったのだろうか。それにしても、非常識な行動をとる人が少なからずいるものだ、と驚きを隠せない。


そんなわけで、我が家は今年も可能な限り外出を自粛している。それでも感染するときはするのだが。

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