第41話 何かを諦めなければ無理!

COVID-19の第7波が一気にやってきた。新規感染患者数は爆発的に増加し、束の間の静けさを保っていた医療機関も大騒ぎである。印象としては若年者の感染者が多いように感じる。保育所や幼稚園、小学校などがクラスターとなると、職場の中心となっている年代のスタッフが濃厚接触者/感染者となるため、出勤ができなくなる。するとスタッフ不足のため、病院の機能そのものが低下してしまう。患者さんはたくさん発生する、一方で病院の機能は極端に低下する、医療崩壊そのものである。


以前から、COVID-19を2類感染症から5類感染症に引き下げよう、という声が出ている。累積患者数が一千万人を超え、一日に何万人もの患者さんが感染している感染症をわざわざ2類のままにしている意味はないと思う。じゃぁ、5類でよいか、というとそういう問題でもないと思う。


COVID-19流行前は、小児科で麻疹、風疹、水痘などの流行性疾患は待合室を別にしているが、多くのクリニックが、発熱患者さんもそうでない患者さんも同じ待合室で待っていた。インフルエンザの流行時期でさえそうであった。しかし、重症化しにくくなっているとはいえ、インフルエンザよりも重症化率が高く、感染力もインフルエンザとは比べ物にならない感染症である。そんな人を、高血圧などで定期に診察に来られている方と同じ待合室に入って待ってもらう、なんてことをすると、待合室が感染爆発の原因となってしまう。なので、2類であろうが5類であろうが、COVID-19感染が疑われる人とそうでない人を隔離しなければならないのである。


今日の帰り道、NHKラジオで、東京の地域に密着する小児科クリニックの院長にインタビューをしていた。院長先生は「すみません、まだ診察中で、患者さんが待っているんです」と仰られていた。今、その地域では、COVID-19と同時に、例年流行するウイルス性疾患も流行しているそうである。ヒトメタニューモウイルス、RSウイルスや手足口病など発熱を伴うウイルス疾患も多く見られるとのことであった。ヒトメタニューモウイルスも、RSウイルスも発熱と気道系症状を呈し、時に肺炎を起こしたり、場合によっては人工呼吸器管理を必要とするウイルスであり、抗原検査などをしなければ、COVID-19、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスの鑑別は不可能である。また、待合室での感染を予防するためには、時間的、空間的隔離が必要であり、どうしても予約診療の形を取らざるを得ないとのこと。医療従事者の感染を予防し、院内で他の患者さんに移さないように対応しながら診療を続けようとすると、1時間あたり、多くても5人程度しか診察が進まないとのことだった。これまでなら、午前は9時~12時くらいが診察の時間だが、3時間では15人しか診察できない。おそらくインタビューに答えておられた先生は、朝から休憩を取る余裕もあまりなく、インタビューを受けていた18時過ぎ、そしてその後も診察を続けられるのだろうが、それでも地域が必要とする数をさばききれない。


ネットでは、「開業医が怠けている」なんて論調もあるが、古くからある内科・小児科の診療所であれば、発熱している児から、高血圧で薬をもらいに来た高齢の方にCOVID-19は容易に感染してしまう。それを避けようとすると、前述のように患者さんの診察速度が落ちてしまうので、結局医療資源が足りないことになる。ちなみにではあるが、かつてプライマリ・ケア連合学会で、訓練されたプライマリ・ケア医が診察できる速度としては、3時間で25人が目安、ということであった。小児科であればもう少し速度が要求されるのかもしれないが、1時間に多くて5人、では急増する患者数、あるいは通常の状態でも患者さんをこなしきれない速度である。


個室とした待合室をたくさん持ち、患者さん同士の接触を限りなく減らした状態で、発熱、感染症のみを診察する発熱外来のみの大病院を各都道府県に数個ずつ作り、発熱患者さんに、院内感染のリスクなく診察を受けられる施設を増備するか、待合室での感染、外来での感染をすべて許容して患者さんをいわゆる「通常の速度」で診察をするようにするか、でなければ、すべての患者さんに適切なタイミングで適切な医療は供給できない。物理的に不可能である。そういう意味で、何かを諦めなければ、この難局は乗り切れないと思う。発熱外来専用の医療機関を作り、来院された患者さんの待合場所がすべて個室で仕切られている医療機関とするか(これはお金と時間がかかる)、時間的、空間的隔離を諦め、かつてのスタイルで診療を行なうか(これは医療機関、待合室が感染拡大の大きな原因となるであろう)、そうしなければこの第7波は越えられないだろう。また、医療を受けることができずに亡くなってしまう人が複数人出てくるだろう。悩ましい限りである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る