第32話 13兆円の損害賠償

東京電力 福島第一原子力発電所で、東日本大震災に伴う津波を引き金とする事故について、当時の経営陣を相手どり、株主代表訴訟が行われた。東京地裁の判決では、「事故は予見することができた。事故は経営陣の過失に起因する」と判断され、4人のもと経営陣に対して13兆円の賠償を命じられた。


「経営責任」と言えばそうなのだが、果たして、この4名だけに13兆円の責任があるのだろうか?確かに、東日本大震災の前から繰り返し、発電所設計時に想定された高さを越える津波が襲う危険性があり、防波堤を高くするなどの安全対策をすべきである、という報告がなされていたのであるが、経営陣がそれをスルーしていたのは確かである。東北電力の女川原子力発電所は、起きうる津波の高さを想定して発電所の立地を決定し、それが結果的に津波から女川原子力発電所を守ったわけである。


また、福島第一原子力発電所の非常用電源は地下に設置されていたが、「非常用電源を地下に置く」という発想は、原子炉を開発したアメリカでは、「地震」や「津波」よりもはるかに「竜巻」のリスクが高いため、「竜巻」でダメージを受けないために地下に設置するようになったとのこと。なので、竜巻よりも、津波であったり台風や洪水などのリスクが高い日本では、その「根本的な設計思想」に立ち返って原子炉を組み立てることが必要ではなかったのか。


そう考えると、直接的には「東京電力」で起きた事故であり、「東京電力の経営陣」にある程度の過失は認めるが、さらに深く考えるなら、原子力行政や原子力工学者全体の問題もあると思われる。


と考えると、被告4人に対して、到底払うことのできない13兆円を課す、という事は、確かに東京電力に対してそれだけの損失を与えた、という事は理解しつつも、ある意味司法の現場で行なわれた「見せしめ」ではないのか?と思う。


法律家が、法律を振り回して特定の人を「見せしめ」にするのは、本来の司法の役割としていかがなものだろうか?私は法律家ではないので何とも言えないが、個人的には、なんかすっきりしない、モヤモヤしたものが残る判決ではある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る