第10話 規則正しい運動?

私は子供の頃から鈍くさかった。理由の一つは、遊んで運動能力を伸ばしていく期間に、頻繁に熱を出して寝込んでいたため、相対的に外遊びが少なかったためだと思っている。それはそれとして、走るのも遅く、球技もダメダメ、鉄棒も無理、マット運動や跳び箱なんて悲惨の一言、というように運動のできなかった私は、「体育」という授業が大嫌いだった。大学に進学しても最初の2年間は必修科目として体育がある。学部によって時間割が組まれるので、男女混合での授業となり、高校までの男女別、ある程度本気の体育とは違い、お楽しみ程度のものにはなるのだが、それでもチームで動く球技では周りのみんなの足を引っ張りまくり、良い思い出は全くない。専門課程に入り、体育がなくなった時には、心の底から嬉しかった。


それから数十年がたち、年を経るにしたがって、年齢と体重は正の相関を示し、どんどん体重が増えてきた。それとともに、若いころはウェスト69cmのジーンズをはいていたのだが、身長は変わらないのに、数字は入れ替わりウェスト96cmのズボンをはくようになってしまっている。


過日、医師会主催の産業医講習会があり、仕事を終えるとすぐに車を飛ばして会場に向かい、参加してきた。講習の一つには、健康維持と継続的な運動の話があり、資料の最後にはそれぞれの運動量(METsという単位を使う)と、それに相当する運動の票が分かりやすく載っていた。METは”Metabolism Equivalent of Task”の略で、安静時の代謝量を1METと定義し、それぞれの運動が、安静時の代謝量の何倍に相当するか、を数値化したものである。講習会の資料が今手元にないので、詳細は忘れたが、健康な人では少なくとも1日に3METs以上の運動を30分以上、これを週に6日以上行なうことが推奨されていた。


換算表を見て驚いたのは、立ち上がってギターを弾く、という行動は3.5METsもある、ということだった。今の職場に移ってから、少し早く帰宅できるようになり、ギターを弾く時間的、精神的余裕もできてきた。ただ、これまでは座ってギターを弾いていたので、「これからはストラップを使って、立ってギターを弾こう!」と少しうれしくなった。


それから数日後、子どもが眠った後、妻から話があった。「この前に読んだ本では、50代、60代はまだ飛んだり跳ねたりできる年齢だから、もっと運動しませんか」という提案だった。BMIが27程度の軽度肥満くらいであれば、確かに飛んだり跳ねたりも、ある程度可能だろうと思ったが、少なくともBMIが30を超えている私には「飛んだり跳ねたり」は股関節や膝関節などにかなりの無理がかかるはずだと思った。なので、「お散歩くらいならするけど、バドミントンとかは、ちょっと嫌だなぁ」と妻に伝えたのだが、あまり私が乗り気ではないオーラを出しすぎてしまったためか、妻が機嫌を損ねてしまい、「もういいよ。もう寝る!」と言って不機嫌に寝室に入ってしまった。う~ん、こまったなぁ。


それから数日後、以前に書いたが、下鴨神社、糺の森にお出かけをした。うろうろと歩いていると妻が「ちょっと待って。股関節が痛い」と言って立ち止まる。何か引っかかった感があるとのことだった。うーん、少し歩いて股関節痛が出るのはあまりよろしくないなぁ、と思った。妻は「飛んだり跳ねたりできる年齢だよ」と言っていたが、「飛んだり跳ねたり」すると、妻の股関節がだめになるんじゃないか。妻からの運動のお誘いだったが、妻の股関節がまず運動に耐えられないじゃないか、と内心思った次第である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る