フルチェロ孤児院

「孤児院はこっちか」

「だいぶ、寂れた感じになってきたね」


 俺とココアはハイレン達と別れた後、孤児院にむかって足を運んでいた。

 建物の数は段々とまばらになっていき、スラム街側へと入っていく。


「しかし……この辺まで来ると、だいぶ懐かしい雰囲気だ」

「そっか、グレイくんは元々はファーラウェイ領のスラム街出身だっけ」


 アーネット様に拾われる前……俺にとっては遠い昔の話だ。

 少し見覚えのある街並みにもなってきたが、そういい思い出もない。俺は足早に目的にの孤児院へと歩いた。


「ここが……」


 2人で立ち止まる。かなり老朽化の進んだ教会を、孤児院にしているようだった。

 フルチェロ孤児院。やっぱり何か聞き覚えがある。ファーラウェイ家の寄付がやっぱりあったはずの、ここであってるみたいだ。


「行こうか」


 孤児院の敷地内に入る。すると中から子供たちがバラバラと出てきた。


「うお……」


 驚く間もなく、その子供たちに囲まれる。


「お兄ちゃんだれ?」

「いつもはウェル兄だよな」

「お姉ちゃんかわいい〜」


 そんな彼らに俺たちはただ困惑する。


「ま、待ってくれ君たち」

「こ、困っちゃうよ……」


 そうこうしていると、教会から「すみませんー!」という声と、シスターの服を着た、俺たちの丁度親世代くらいの女性が走ってくる。


「この子たちがすみません! あなた方は……?」

「俺はグレイです」

「わ、私はココアと申します……えっと、グレープスさんからバスケットを預かってて」


 ココアがそれを差し出すと、そのシスターはあら、と口元を緩ませる。


「届けてくれたのね、ありがとう! せっかくだから上がっていってくださいな」


 その言葉を無碍にするわけにもいかず……というか、物珍しげに裾を引っ張る子供たちに引っ張られてでもあるが……俺たちは、その孤児院に入った。


「どうぞ、何もありませんがゆっくりしてください」


 彼女は上機嫌に、バスケットの中からサンドイッチを取り出す。

 それを俺たちにも渡してくれながら、彼女は椅子につく。


「ウェル……あの子とはどういう?」

「俺たちはグレープスの客で、そこでたまたま知り合いまして……」


 俺たちが話していると、椅子の周りに子供たちが群がってくる。


「お兄ちゃん何してる人なのー?」

「俺はそうだな……今はこの街の警備にもあたってるよ」

「お姉ちゃんはー?」

「ふ、普段は帝都で勉強してるんだけど、彼と一緒で警備に……」


 なんとか子供たちと話していると、シスターがその皺で年季の入った口元をゆるませる。


「ウェルが来てくれた時もいつもこうなんですよ。ちゃんとはじめまして、は言った?」

「「はじめましてー」」

「あの……グレープスさんはここ出身なんですか?」


 俺が向き直ると、彼女もええ、と頷く。


「私は20年ほど前にここにあった孤児院を引き継ぎまして……それからずっとですね」

「へえ……帝都で修行してたってのは、いつ頃からなんですか?」

「ええ! 八年前になるんですかね? 有名なコックさんがたまたまこの辺りにいらっしゃっていて……ウェルは昔から料理だけはとっても得意でして、この孤児院でも料理番をしてくれていましたから、お目に止まったそうです」


 大体は聞いた話のままだった。孤児院で料理当番をしていたら帝都の大料理人に弟子入りか……帝都で流行ってた、料理小説にありそうな話だな。


「こっちに戻ってきてからは差し入れなんかもしてくれるようになって……ほんとにいい子です」

「そうですか、グレープスさんが」


 彼の柔和な表情を思い出す。彼も、大変な人生を送ってきたのだろう。

 そのまま談笑しながらグレープス謹製のサンドイッチを頂いた。子供たちも美味しそうに頬張っていたようで、しばし俺たちから離れてくれた。

 しかし、調度品なんかは結構錆びれたり、照明器具も壊れかけたりしている。孤児院への寄付を少しばかり見直す必要があるかもしれない。ついでだから見回っておくか。


「少しここを見て回ってもいいですか?」

「ええ、構いませんが……面白いものはないと思いますよ?」


 不思議そうな彼女だったが、咎められることもなく俺は院内を見て回ることにした。

 立ち上がるとココアがとてとてと駆け寄ってくる。


「孤児院の視察って……こと?」

「ああ。ファーラウェイ家に身を置く者として、民の生活はちゃんと見て置くべきかなと思って」


 歩いていると階段に当たる。二階建てのようだ。その階段に足をかけると、ぎしりと嫌めな音がする。建物の修繕費なんかも、これからは考慮に入れるべきかもしれない。

 階段を登ると、扉がいくつもある場所に入った。院の子供たちの部屋のようだ。


「ひとりひとりの部屋なら、邪魔するのも悪いね……」

「そうだな、戻ろうか」


 そう言って階段を降りようとした俺たちだったが、


「お兄ちゃん、お姉ちゃん!」

「ウェルの代わりに来たんだろ!? 遊んでってくれよ!」

「帝都で勉強って言った? 魔法使える!? 魔法!」

 階段を駆け上がってきた子供たちと鉢合わせてしまった。


「……まあ、これも息抜きにはいいか。分かったよ」

「ま、魔法はちょっと使えるけど……」

「姉ちゃんすげー!! 見せてくれよ!」


 俺とココアは苦笑しながら、彼らに連れられて部屋に連行されていった。

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