暴食編

殺人鬼の噂

 私事で忙しかったのと、第二部の構想のためにしばらく期間が空いてしまいました。復帰しましたのでどうか引き続き応援よろしくお願いいたします。



 ――――ココア・シュガーユーと、彼女のもたらしたカンニング騒動の顛末はこうなった。

 まず、カンニング犯として自首したシュガーユーの、自白と現場の状況が合致していたことから、彼女は教師陣の厳しい追及と責任を負うことにはなった。

 しかし、そこで俺の口添え(ファーラウェイの圧力とも言う)が加わって、彼女は退学までは免れることになった。

 一年間の休学と学園の雑務の無償労働。彼女への罰はそうなり、事件は秘密裏に葬られた。


「……本当によかったの?」


 全ての事が済んだ後、廊下を歩く彼女は、俺に尋ねる。


「全てはアーネット様のためだ。きみは俺の利になると、そう判断したまでだよ」


 俺はそっぽを向いて言う。

 その言葉を信じたのかは分からないが、彼女は何も言わなかった。


「それより、お前に約束したよな」

「……うん、何」


 俺とココアは一つ契約を交わしていた。

 その一つに……俺の目的のために、弱体化したエンヴィーキャットワークを行使してもらうというものがある。


「俺の望みを一つ叶えろって言ったよな」

 

 その俺の言葉に、彼女は視線を落として頬を染める。……なんでだ。


「その……わたしは、きみにたすけられた人間だからあれだけど……」

「おいちょっとまて、何か勘違いしてないか」


「この夏休みで、俺はファーラウェイ別邸に戻る。そのときに俺はちょっとした揉め事を起こすことになるはずだ」

「怖いね……何をさせる気なの」


 俺は以前の世界での記憶を呼び覚ます。


「ファーラウェイ領ではそろそろ、帝国設立以来の大犯罪が起こることになる」

「犯罪?」

「人殺しだよ……しかも連続の。」

「それは一体――――」


 俺はその記憶を思い出す。

 暴虐の限りを尽くし、帝国のなかでファーラウェイ領のみで起こったその事件に対して、帝国内ではファーラウェイを非難する声が強くなり――――そして、アーネット様の立場を特に弱くしたのが。

 俺はそのときのことを辛酸をなめたような感覚を覚えながら口にする。


「近い未来……ファーラウェイ候が殺害されるんだ、その殺人鬼の手で」

「侯爵が!?」

「犯人は相当の手練れだ。帝国の親衛隊までもが動いたけど、結局甚大な被害を出して終わった。結局正体も掴めず突然その連続殺人を止めた奴を、畏怖を込めて人々は呼んでいた――――」


「犯行現場に残されていた、遺体にあった唾液と歯形から、「ザ・イーター喰らう者」と」





 暗く、淀んだスラム街の路地の奥。

 何かを咀嚼する音が聞こえる。

 それはおどろおどろしい雰囲気を持ち、そしてまたそこから少し離れた日のさす通りからは異質な雰囲気を湛えている。


『……なぁ、美味いか? ソレ』


 響く、聞くだけで耳が腐るような鬱屈とした声に、一人の透き通るような女の声が答える。


「ええ、とても」

『はぁん……趣味が悪いな』


 そこまで興味はなさそうにその声は答える。


『――――すべてを喰らう能力を与えたのはオレだがよ……もっと良いモン食えばいいのに』

「あら、わたしにとってはご馳走よ、これも」

『お前にとっちゃ世界、すべて飯ってわけかよ』

「ええ――――そうね」


 彼女は唇についた深紅のソースを舐めとる。


この帝国アルファギアなんざ、私のよ――――」

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