エンヴィーキャットワーク
『彼女を……ココア・シュガーユーを、救ってほしい』
意外な言葉に、俺たちは混乱を深めた。
「状況がよく分からないんだけど……」
『まあそうだろうね。何か質問があったら、今のうちに聞いておいて』
俺とサタンは顔を見合わせると、それなら……と質問をし始めた。
「じゃあ、まずは最初だ。ココアの固有魔法は一体何なのか、先に教えろ」
『……あまり言いたくはないんだけど……協力を求めてる以上、仕方ないわね。彼女とあたしの魔法は『エンヴィーキャットワーク』。羨ましいと想った相手に乗り移ることができる』
「俺たちと同じく――――原動力は
『私とグレイは怒り、こいつは嫉妬心ってことね』
羨ましいと思った相手に乗り移れる。それなら、彼女はアーネット様や俺のことも羨ましい、そして妬ましいと、そう思っていたのだろうか。考え込む俺をよそに今度はサタンが口を開く。
『それなら次は私だ……お前も、人間の嫉妬から生まれた悪魔だよな』
『ええ。サタン、あなたもそうなんでしょ?』
『ああ、私は人々の怒りだ。それで質問だが。私たちの他に、悪魔はまだいるのか?』
レヴィアタンは少し目を伏せた。
『その答えは曖昧になるわ……多分、いた。けれど、その存在を私は覚えてない』
「あまり、要領をえないな。どういうことだよ」
俺が問い詰めると、彼女は大きく息をついて話し出した。
『それが、ココアを救ってほしいという話の本題になるの。今の彼女はある種の洗脳を受けている』
「洗脳?」
『ええ。あの娘と私が契約したのは、遠い昔のことだった』
レヴィアタンは長くなるからその話は省くけれど、と続ける。
『そして……あたしとココアが、魔術学校に入学する少し前。初等部を卒業する辺りで、あたしの記憶は一度途切れている』
「記憶が途切れる?」
『大体二週間くらいね……そしてその後から、ココアはある貴族の子女に固執するようになった』
「それって」
『ええ。あなたのお嬢様、アーネット・サン・ファーラウェイよ』
その言葉を聞いて、俺はやっとこの悪魔が俺にやらせたいことが何か理解した。
「つまり、ココア・シュガーユー。あいつ
『あたしはそうだと思っているわ。そもそも、エ
「それで? 俺はどうすればいい」
レヴィアタンの話を聞き終わった俺は、落ち着いて尋ねる。
『随分……呑み込みがはやいのね』
「これでも色々あった方でな」
この人生が二度目であるという話は、まだするべきではないだろう。
レヴィアタンの方も、俺たちに何かの
当然といえば当然だ。そもそも俺たちは敵対関係であり、信頼するわけにはいかない。
しかしまあ、放っておけばよかっただけの俺たちに声をかけてきたあたり、俺はまだこの悪魔は信用できると踏んでいた。
『あたしの「エンヴィーキャットワーク」。これを無理やり使って、あなたをココアの意識に送りこむわ』
「お前がか? 術者がいないのにどうやって魔法を使うんだよ」
『あたしたちは魔力の結晶よ。多少無理をすることにはなるけれど……一度くらいならなんとかするわ』
「……分かった。それでいい。その後は?」
『ココアの意識の中で、彼女本来の意識を見つけ出して。以前の彼女が戻ってくれば、アーネットに危害を加えることもない』
「そうだな。あいつが操られてるってのがマジなら、その大本を見つけ出すためにも、ココアを始末するわけにはいかない」
『言っておくけど……始末なんてさせないよ』
レヴィアタンの声が色を帯びる。
『あの娘はあたしだけのものだ……』
「嫉妬の悪魔だけに情緒えぐいな……そんなことはしないって今言ったろ」
俺たちがいくつか計画を練ると、すぐにレヴィアタンはECWの行使に入る。
『アールグレイ。ココアを任せたよ』
「俺の目的はアーネット様の安全だ。ひとまずは利害が一致してるし……俺も顔見知りを手にかけるなんて、できればしたくないしな」
俺は初めてあの娘を見たことを思い出す。路地裏で怯える猫のような奴は――過去の俺のようだったと、その光景を思い返す。
アーネット様が俺を救ってくれたように、俺もまた彼女が非常事態に陥っているなら助けてやろうというのは傲慢なのだろうか。
ECWが発動して光に包まれる中、レヴィアタンの任せたよ―――という声がこだました。
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