真相を求めて
「……アーネット様?」
その問いかけに、彼女は答えない。
茫然とスウィッツの言葉を思い出す。
「光属性の上級魔術で」――――「宮廷魔術師たちの編み出した魔法」――――五大貴族であるスウィッツですら、やっと見ることができた最新の資料。同じ五大貴族であるアーネット様も、確かに見ることが出来る筈だ。
考えれば考えるほど話が繋がっていく。しかし、俺自身はそれを真実として理解できなかった。
そもそも彼女がそんなことをするはずがない。そんな人ではないことは俺が一番よく知っていた。しかし―――それなら目の前の彼女は一体誰なんだ。
と、彼女が真っすぐ俺の方に向かってくる。
「待ってください!」
彼女を止めようと手を伸ばす……が。
「……邪魔。どいて」
普段の彼女からは考えられない程の冷徹な一言に、俺の体は凍ったように動かなくなる。
歩いていく彼女を後ろから静止しようとするが、その先の言葉が出てこない。
何を言えばいいのか分からなかった。俺は混乱していたのだ。
そんなことをしている間に、彼女の後ろ姿は見えなくなる。
「大きな物音がしたぞ! 大丈夫か!?」
「……教員室の鍵が壊れている! 犯人がいたんだな!」
「顔は! どんなやつだった!?」
駆け付けて来たスウィッツとハイレンに、俺は真実を言えなかった。
「……分からない。透明化したまま逃げられてしまった」
「そうか……まあ、無事でよかったよ」
スウィッツが扉の鍵を見ながら呻く。
「うわお、これはかなりの精度の『ライトニングカッター』だね。交戦しなかったのは正解だな」
「それってすごいのか?」
「中級魔法とはいえ、鍵だけを綺麗に真っ二つにしている。人間だったら怪我じゃ済まないね」
会話する二人を麻痺した頭のままでぼんやりと見る。二人は明らかに様子がおかしい俺を心配そうに見ていたが、深くは尋ねないでおいてくれた。
そして翌日。俺たちは学校に来た教員に経緯を説明する。
「――――ということがありました」
そう話すハイレンに、教員は唸る。
「『姿を消す魔法』か。してやられたな」
「この魔法は宮廷の極秘情報ですので……」
「なるほど。光属性の魔法使いかつ、そんな高レベルな情報を知れる者は限られるな……もしかするとこちらで犯人に迫れるかもしれない」
「本当ですか!? よろしくお願いします」
顎に手を当てていた教師が、ふと何かを考えたかのように俺の方をちらりと見る。……アーネット様も、やはり候補に上がってしまうか。
「また何か分かれば、君たちにも連絡する。それと今回、カンニング犯を撃退した功績は学校側も高く評価するだろう」
「あ……りがとうございます」
当初の目的は達したはずの、俺の声は重い。
ひとまず教師と別れて、今日の授業に向かうため俺たちは講義室に向かった。
「……あのとき何かあったのか? グレイ」
ハイレンのその言葉に正気に戻る。
気付けばスウィッツとハイレンに回り込まれていた。
「グレイ君。きみ、あのときから何を聞いても上の空だし、話は要領を得ないし。何かあったなら話してくれよ」
二人の言葉に、俺は口を開きかける……が。
すんでの所で思いとどまって、いや、と口火を切る。
「なんともないんだ。ただちょっと疲れただけさ」
「しかし……」
言葉を続けるスウィッツをおいて、俺は講義室に入り、自分の席につく。
二人もそれ以上追ってこなかった。
俺は冷静さにつとめながら、もう一度よく思考を巡らせる。そして俺は、ひとまず
ヘイトレッドゲートを発動しようとしても、感情がまとまらない今はうまくいかない。それならいっそアーネット様に、何故そんなことをしたのか聞いてみよう。
俺は立ち上がると、これから始まる授業は放棄して教室を出る。
俺の後ろ姿を、ハイレンとスウィッツは心配そうに見ていたが、追ってくることはしなかった。
二人に感謝しながら、俺はアーネット様のいる講義室に向かった。
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