誰だって緊張するものだ

 合格発表の日。

 ひどく緊張する俺は、アーネット様と貼りだされた発表を見に来ていた。


「グレイは頑張っていたし大丈夫だと思いますよ」


 アーネット様が元気づけてくれるが、それに応える余裕もないまま、俺は必死に自分の名前を探す。


(アールグレイ、アールグレイ……)


 校門に貼りだされていく合格発表の紙を目で追う。

 一枚目、ない。二枚目、ない。三枚目―――

 貼り紙の隅。小さく俺の名前があった。


「――グレイ! すごいわ、グレイ!」


 喜ぶアーネット様とは対照的に、俺は一気に力が抜ける。

 それでもすぐ、初めて自分の力でやり遂げたことに、喜びが勝った。


「ありがとうございます! これもアーネット様のおかげです!」


 これで俺もようやく、大手を振って魔術学校に入学する一歩を踏み出したわけだった。




 少し舞い上がった気持ちを落ちつけたくて、アーネット様と離れて俺は路地裏に入る。

 ただただ、自分の力が認められたようで嬉しかった。


(でも、まだ終わりじゃない。これから魔法実技の試験もある)


 まだ油断するには早いと、俺は頬とぱしりと叩いた。

 と、路地の奥側から少女の怒号が聞こえて来る。……デジャブだ。でも、なんだか声色が違う。


 俺は壁からそっとその様子を覗く。前回と同じく、紫髪の少女に群がる、三人の少女がいた。その中でも特につっかかっているのは……確か、ドロワーズ辺境伯の娘とかいったか。


「なんであんたみたいなのが合格して、あたし達が不合格なわけ!?」

「そうよ、おかしいでしょ!」

「あんたみたいな平民より、あたしたち貴族が劣っているっての!?」


 どうやら前回と話が違う。立場は逆になったようだった。

 間違いなく俺が時を巻き戻したせいだろう。それに関して貴族の三人組に罪悪感はあったが、今回こそ俺は自力で入学した。こちらの世界では堂々と勝負したし、諦めてもらうほかない。


「そもそもまともに試験を受けれてないでしょ! わざわざ前日に薬まで盛らせたのに」

「……!? まさか、あの日体調が悪かったあれは……!?」

「ま、そんなことはどうでもいいわ。とにかく」


 貴族の娘は、その醜悪しゅうあくな表情を隠そうともせずに言い放つ。


「あんた、いますぐ棄権してきなさい」

「……それは、できない」

「口答えするんじゃない!」


 貴族の少女が、手を思い切り振り上げる。それにびくりと身を震わせる紫の少女。しかし、彼女にその手が振り降ろされることはなかった。おそるおそる開いた彼女の右目に、灰色の髪グレイの少年が映る。


「それはやり過ぎなんじゃないか?」


 俺は、振り上げられた貴族の手を掴んでいた。


(また余計なことに首を突っ込んじゃったな……)


 すぐに後悔するが、目を見張る紫の髪の少女を見て、考えを改める。

 やはり、どこか俺に似ている気がするその少女を見捨てていくには少し気が引けた。

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