やっぱり俺は

『おい、グレイ』

「……突然、何の用だよサタン」

『何で?』


 。アーネット様とファーラウェイ家の屋敷に向かう俺に、サタンが話しかけてきた。

 そうだ。俺は、あの紫髪の少女と別れた後、一か月前まで時を戻した。


「前回は良い成績を取り過ぎたから怪しまれる。今回は、もう少し点数を下げたい」

『はん。本当にそれだけか?』

「それだけだ」

「……グレイ? ぼんやりしているようだけれど大丈夫?」


 アーネット様の声で、現実に引き戻される。


「ええ、大丈夫です。屋敷に向かいましょう」




「ただいま戻りました、お父さま」


 アーネット様が屋敷に入ると、彼女を待っていた父親に挨拶する。前回と全く同じ展開だった。


「ああ、よく戻った。ご苦労だったな」

「こちらが、私を屋敷に侵入した賊から守って下さったアールグレイです」

「……お目にかかります、フランクス卿」

「それで、お父様。このグレイを、魔術学校に入れる話についてなのですけれど……」


 フランクス卿は、今回もやはりため息をつくと、アーネット様に向き直る。


「あのな、アーネット。魔術学校は道楽で入れるような所じゃないんだ。お前はうちの一人娘だから入学試験も特例で免除されているが、本来は難易度の高い入学試験が必要なんだぞ」


 その言葉にアーネット様は言葉を詰まらせた。しかし、そのまま言葉を返そうとするアーネット様を遮って、俺は言った。


「正直に告白すると、俺は座学に関してはからっきしです。このままでは入学試験には……受からないと思います」

「グレイ!?」


 驚いた顔をするアーネット様だが、俺は言葉を止めない。


「しかし、自分にはアーネット様をお守りするという使命があります! この命に代えてでも、彼女を護衛するには学院への入学が必須かと思いました」


 目上への最敬礼、頭を垂れて俺は嘆願たんがんした。


「お父様。自分からもお願いです。グレイはこの歳にして中級魔法を扱えます、純粋な魔術の才能も基準を充分満たしています!」


 フランクス卿はしばらく返事をしなかった。ダメだったか……と冷や汗をかく俺たちだったが、彼はふう、と一息つくと話し出した。


「アーネット、お前がわがままを言うのは思えば初めてだな……。よかろう、帝都の教師を付けてやる。しかし、一度で合格しなければ知らんぞ」

「あ……ありがとうございます! ご期待に必ずお応えします」


 なんとかなった……と俺たちは胸を撫でおろした。




 それから俺は講師の元で真面目に勉強をした。いざやってみると、俺はそこまで物覚えが悪いわけでもなかった。むしろ、ある程度の算術などは既に備わっていた(これは前世の記憶が手助けしてくれたが)。

 アーネット様は、私が勉強を教えてさしあげますと息巻いていたが、俺は苦笑して丁重にお断りした。罪悪感はあったが、時間は残されていなかった。


 そして一か月後。また、筆記試験の当日が訪れた。

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