やっぱり能力で突破します

「本当に大丈夫ですか、グレイ!?」


 心配するアーネット様を置いて、俺は試験会場に到着した。

 入学試験は首都にあるいくつかの施設で一斉に行われるらしく、俺は少し離れた所にある教会で試験を受けることになった。


「では――始め!」


 試験官の号令とともに、頁をめくる。これでも一応の勉強はした。一発で合格するならそれに越したことはない。


『聖アルファギア帝国において、第一帝政が瓦解したのは何年か』

『――――このとき、Xに入る二桁の数字を求めよ』

『土属性の中級魔法を充分に使用するために必要な魔力量の概算を――』


 (わ――――)


 分かるか。

 以前の世界で、俺はアーネット様の盾なのだから学などいらない、とつっぱっていた自分をしばきたくなる。

 しかし、今年は例年よりも難易度が高いらしい。周りの受験生も難儀なんぎしているようだった。




「終わった……」

「あんなん分かるわけないだろ……」


 試験終了後。周囲の生徒たちも、絶望的な表情をして机に突っ伏していた。


「お疲れさまでした。試験の合否は魔術学校の正門前にて貼りだします。その後、合格者は魔術量テストに移りますので――――」


 俺はその話を聞き流すと、アーネット様の屋敷に戻った。

 心配そうな顔をするアーネット様に、大丈夫です! と豪語して、俺は自室に戻る。

 発表はその翌日だった。が、まあ、しかし……


「不合格じゃありませんのー-!?」


 貼りだされた合格発表の紙。当然のように俺の名前は無かった。

 それに対するアーネット様の驚愕きょうがくの声は、校門の前に集まった生徒全員の視線を奪うほど大きかった。

 なにごとかとざわつく周囲の中、俺は小声でアーネット様に話しかける。


「ちょ、ちょっとアーネット様」

「あれだけ自信満々にしていらしたので、何か秘策があるのかと……」

「も、申し訳ありません……」

「いえ、グレイが悪いわけではありませんわ……こうなれば、資金援助からの裏口入学しか……」


 だいぶ暗黒面に落ちているアーネット様に、心の中ですみません、と謝ってから配布されている解答を受け取る。

 その解答に目を通し、ひととおり暗記したところで、俺はゆっくりと目を閉じた。


 思い出すのは、あの日の処刑の光景。アーネット様と共にいることで、浮かれていた心が鉛のように重くなる。あの悲鳴も怒号も、背を貫いた槍の感触も、何一つ忘れていたわけではない。封じ込めていただけだ。

 その怒りと共に、だんだんと左目の奥が熱くなってくる。それがある一点を超えた瞬間、俺の体は高くこの時間から離れた。




『――――では―――始め!』


 試験官のその声と共に、はっと意識が戻る。俺は、試験当日のその時間まで戻ってきていた。

 俺は机に置かれている問題用紙に目を落とす。


『聖アルファギア帝国において、第一帝政が瓦解したのは何年か』―――1815。

『――――このとき、Xに入る二桁の数字を求めよ』――――38。

『土属性の中級魔法を充分に使用するために必要な魔力量の概算を――』―――400。


(うん。全て、覚えてる)


 俺はペンを取った。怪しまれないよう難問はわざと外しながら、解答用紙を全て埋める。


(よし、こんなもんだろう)


 大体解答し終わって目を上げると、まだ試験時間は半分しか経っていなかった。

 時間を持て余した俺は、ちらりと周りの生徒を見る。

 国立魔術学校は、貴族平民問わず、優秀な生徒を募集している。のだが。


 周りには圧倒的に貴族が多かった。それもそのはずで、魔術学校に入学できたとしても、全寮制の高い費用を払うことは平民には難しいのだ。

 かく言う俺も、ファーラウェイ家に全額を負担してもらうことになっている。まだこの国には、貴族と平民とで大きな差があった。それは大きくなり、七年後に国を呑み込むことになるのだ。

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