入学試験編
帝都、ベータニアへ
帝都ベータニア。ここアルファギア帝国の
馬車は七日かけて、帝都にあるファーラウェイ家の屋敷に到着した。
「ただいま戻りました、お父さま」
アーネット様が屋敷に入ると、彼女を待っていた父親に挨拶する。
「ああ、よく戻った。ご苦労だったな」
扉の前で背を伸ばして立っていたファーラウェイの当主、フランクス・ファーラウェイ公爵が俺たちを出迎えた。
「こちらが、私を屋敷に侵入した賊から守って下さったアールグレイです」
「お初にお目にかかります。アールグレイです。ファーラウェイ家に務めさせていただいてまだ一年ですが、この命にかえてもお嬢様をお守りいたします」
膝をついて挨拶した俺に、フランクス卿は髭を整えながら「感謝している。これからも頼むよ」とおざなりに返事を返した。
彼とは、前回の世界でもそこまで親交は深くなかった。様々な事情があったからだが、それについては今はいい。
「それで、お父様。このグレイを、魔術学校に入れる話についてなのですけれど……」
アーネット様が彼を呼びつけた本題はこれだった。俺が魔術学校に入るための費用を、ファーラウェイ家が負担してくれるかどうか。ここは是非出して欲しいところだけれど、そう甘いはずもない。
フランクス卿はため息をつくと、アーネット様に向き直った。
「あのな、アーネット。魔術学校は道楽で入れるような所じゃないんだ。お前はうちの一人娘だから入学試験も特例でパスできるが、本来はかなりの魔力量が必要で―――」
「あら、お父様。グレイはこの歳にして既に中級魔法を使いこなしていますわ」
「……中級魔法? この少年がかね」
フランクス卿は俺の姿を上から下まで見ると、ほう、と興味深そうに髭を撫でた。
それを見たアーネット様が、ふふんと得意げにしている。何故あなたが。
「それは確かに優秀だが、では座学の方はどうなのかね」
その言葉に、う、と俺とアーネット様は言葉を詰まらせた。
正直に言ってしまうと、俺は学問に関してはどうもからっきしのようだった。というか、貧民街産まれに学を期待する方がおかしいというものだ。
「……実は」
俺が正直に話そうとしたとき、アーネット様がその言葉を遮った。
「それに関しても問題ありませんわ! 充分魔術学校に入学できるだけの素質は満たしています!」
とんでもない話に
「ふむ、まあアーネットの護衛のついでに構わんか。そこまで優秀ならこの国にとって有用な人材ともなりえるかもしれんからな。よかろう、費用は負担しよう。大した額でもない」
とんとん拍子に進んでしまった話に、俺は萎縮するばかりだった。入学試験、このままだと多分受からないんだが……。
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