未来の書き換え
「――グレイ! 聞いてる?」
フレンの声で俺は正気に戻された。
俺が屋敷の掃除を任されるようになってちょうど一か月。前回フレイとこの話をしたときと、同じ場面にまで俺は戻ってきていた。
「ああ。聞いてるよ」
「それでさ、明日。アーネット様は街に視察に出かけられるじゃない。その護衛に、グレイも付いていくんでしょ?」
「そうだね。アーネット様には指一本、触れさせない」
「……グレイ? なんか怖い顔してるよ」
その言葉にはっとした。怒りは抑えなければならないのだった。下手に感情を出すと、能力が発動してしまうかもしれない。
俺は極めて冷静に、あの日のことを思い出す。アーネット様に手を差し伸べられた、全てが動き出したあの日のことを。すこし荒れた呼吸が落ち着き、俺はフレンに手を振って応える。
「なんともないさ。嫌なこと思い出してただけ。じゃあ、俺はまだ仕事が残ってるから」
歩く俺の後ろで、フレンが声をかけたそうにしていたが、俺は歩きながら、明日起こることを考え続けていた。
以前とは暴漢が襲撃してくる場所が違ったこと、その意味と。
明日、自分がアーネット様の正式な召使になるためだけに、あの人を危険に晒すべきなのかどうか。
翌日。
俺は決めた。もし明日の視察での俺の功績が無くなり、俺がアーネット様と共に首都に戻ることができなくなったとしても、俺はどんな手を使ってもあの人を護ってみせると。
自室に戻ると、工具を隠して眠ったふりをする。これで一安心だという安心感から、俺は少し気を抜いていた。
「グレイ! 起きてる?」
フレンが扉を叩く音で目が覚めた。本当に眠ってしまっていたらしい。
時計を確認すると、仕事が始まる時間の五分前だった。
「すまない寝坊した! すぐに出る」
俺は支度をすると屋敷から出る。すると扉の前でアーネット様と鉢合わせた。
「アーネット様。おはようございます」
「ああ、グレイ。今日は少し遅かったわね?」
「申し訳ございません……」
「いえ、怒っているわけではないの。気にしないで。それに」
彼女はちらりと庭の馬車に目をやった。
「どうやら、馬車が壊れてしまったらしいの。タイミングが悪いわね」
「そうですね……今日の視察は、延期ですか?」
「残念だけど、そうするしかないわね」
俺は、ひとまず胸を撫でおろした。これで今日、アーネット様が死ぬことはなくなった筈だ。
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