ここに再びの暗闇を

 気が付くと、真っ暗な空間にいた。ここは見覚えがある――


『また失敗したな、小僧』


 声の方向を振り返ると、にやにやしながら俺を見る、悪魔の少女が座っていた。


「失敗……」


 すぐに、アーネット様をこの手の中で失ったあの感覚を思い出す。呼吸がままならなくなって、俺はその場に崩れ落ちた。


『おいおい、落ち着けよ小僧』

「俺は、お前に与えられた、このたった一度のチャンスすら、棒に振ってしまった」

『んん? 誰が、1回だと言ったんだ』

「……? どういうことだ!?」

『お前は今、『三周目』に向かっているだろうがよ』


 その言葉で、一気に意識が覚醒した。


「三周目……!? まだ、まだ、続けられるのか!?」

『当然だ。この巻き戻しは、お前の怒りが発現したモノ。お前が怒り続ける限り、時を焼く炎は燃え続ける』


 よくよく周りを見てみると。真っ暗だと思っていた空間に、薄く光景が浮かんでいた。

 メイドのフレンと話した、窓際の光景。あの人に始めて名前を付けられたときの、あの光景。そして――あの暴漢の雷が、アーネット様の胸を貫いた、その光景。それらのすべてが、端から燃えて、無くなっていく。無かったことになっていく。


『そら、そろそろ全て燃え尽きる。小僧、今度は記憶を失わないように心の準備をしておけよ』

「これは……この力は。お前は一体何者なんだ」


 俺は悪魔の少女をもう一度眺める。露出ろしゅつさせた肌と、黒い角に長い尻尾。悪魔然とした姿だったが、彼女は薄く笑うだけで答えなかった。


『ああ、そうそう。あと、お前の行動を見ていたが……はダメだな』

「あれ? 何の話だ」

『あの男がサンダーを撃った時のことだよ。なんで魔法を使わなかった?』

「魔法? 俺は火属性の魔法はてんでからっきしなんだ」

『ああ……そうか、お前はだったな、。まあ、試してみるのもいいかもしれないぜ』


 と、そこでちょうど身体が引っ張られるいつもの感覚におそわれた。背後から細く光がさしてきているのを感じる。


『いよいよだな。ほら、行ってこい』


 薄ら笑いで俺を送り出す少女に背を向けて、歩き出す。しかし俺はふと気づいて言った。


「そうだ。あと――――」

『あん?』


 俺は振り返って言った。


「もう、じゃない。俺の名前は、アールグレイ。アールグレイ・ファーラウェイだ」

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