三度目の正直
本来視察があった日。馬車が壊れて(壊して、)視察が延期されたため、俺は代わりにメイド長に言われた仕事、倉庫の片づけをしていた。
しかしこの倉庫は、本来貴族であれば高価な調度品であふれているはずだが、特に目立って高価そうなものは見当たらなかった。それもそのはずで、アーネット様は自分の持つ装飾品などはほとんど売り払って孤児院などに寄付しているのだ。空っぽのこの倉庫は、あの人を象徴するものだった。
この人を処刑することになった、あの日の革命を思い出す。何故あんなことになってしまったのか。
俺は拳を握る。もう、そんな未来は来ない。俺が必ず―――
そこまで考えた所で、妙な気配を感じた俺は、たまたま窓から庭を覗いた。
「なっ――――!?」
庭に出ているアーネット様。その後ろに近寄る、見覚えのない男が一人――――いや、見覚えは、あった。その顔を忘れるわけがない。以前の視察で、アーネット様を雷で撃った、あの男。その男が、裏から壁をよじのぼって侵入していた。
(なぜ!? あの男は、街で暴れることが目的だったはず)
混乱しながらも、アーネット様が危ないと、そう気づいたときに行動は終わっていた。
三階の窓から飛び降りた体は、したたかに地面に打ち付けられた。途中木の枝で背中を引っ掻いたけれど、その痛みも気にならない。俺はアーネット様の方向へ駆け出していた。
「アーネット様! 後ろ!」
俺の必死な叫び声で、彼女が驚いたようにこちらを見やる。しかし、男は既に腕を構えていた。またあの感覚だった。全てがスローになる、あの感覚。これは、一種の
男はまだぶつぶつと言葉を発していた。
ふと、その男のその顔を見たときに、自分の内から怒りがあふれ出るのを感じた。お前はなんのためにアーネット様を殺そうとするんだ。腹いせのはずだ。そんなことのために、この人を手にかけるなど――――それも
後ろを振り返り、自分に向かって腕を突き出す男に気付いたアーネット様が、怯えたような表情をする。
もうあなたにそんな
(『なぜ、あのとき魔法を使わなかった――――?』)
左目の奥が疼き、無意識で右手を前に突き出す。ただ、心には怒りがあった。
「『ファイヤダガー』―――――ッ!」
爆音と共に、俺の右手から炎の激流が迸る。その炎は、今まさにサンダーを撃った男に直撃し、男は庭の奥まで燃えながら吹き飛んで行った。軌道がずれたその雷の一閃は、あらぬ方向に飛んでいき、アーネット様はその様子は呆気にとられたように見ていた。
肩で息をする俺は、たった今中級魔法を使いこなした俺の右手をまじまじと見る。俺には魔法の適正はなかったはずだった。
左目の奥が灼けるように熱い。時を飛んだあのときと、同じ痛みだった。
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