もう一度、この世界へ

二度目の邂逅

 ここは栄華を誇る「帝国」。その田舎街のさらに端。

 廃墟はいきょが立ち並ぶその路地裏に、ボロきれをまとって、そのボロきれよりも薄汚れた少年が道端にちていた。

 立ち上がる気力もないのであろう。手足を地に投げ出して、崩れた壁にもたれかかっている。


 片目が潰れている彼には、名などなかった。親から捨てられ、なんとか盗みで生を繋いできた彼には、名を呼ばれる相手などいなかったからだ。


「くそ……」


 漏れるのは意味の無い罵声だけだった。

 しかし、そんな彼の耳にパカラっパカラっと馬の蹄の音が響いた。


 そして彼の前で止まった馬車から、一人の金髪の少女が姿を現す。

 美しいその髪をなびかせて、ドレスの裾が土に付くことも気にせずに、彼女はそこから降りて来た。


「アーネット様! いけません、そのような者に近付かれては……」


 馬車から降りて来た執事が彼女を静止するが、その少女はそれを手で止めて、少年の前まで歩いてくる。


「これが、この国の王政の結果ですか」

「アーネット様。しかしあなたは貴族で――」

「関係ありません。目の前で苦しむ民を放っておいて、何が貴族ですか」


 彼女は――アーネットと呼ばれた少女は、隻眼せきがんの少年に手を差し出した。


「あなた。私と共に、来ませんか?」

「あんた……あなたは……」


 (天使、みたいだ)


 少年の、半分しかない視界いっぱいに映る金色の彼女は、少年にはひどく眩しくて。

 そして彼は、眼前に差し伸べられた手を取った。

 しかし彼は――アールグレイ・ファーラウェイは、この光景は二度目だと、激しいデジャブも感じていた。

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