第4話:自分を偽って
光はバイトに明け暮れ、付き合いが悪くなった。元々仲は良かったものの、二人で遊ぶことはほとんどないという微妙な距離だった。というか、私が意図的に二人きりになることを避けていた。二人きりになったら、ボロが出そうだから。
「光、あんなバイトばっかりしてどうすんだろうな。海外逃亡でもするんかな」
光と一緒のグループだった明凛はいつも冗談っぽくそう笑っていたが、いつも寂しそうだった。
元々、私達三人は仲が良かった。だけど、光はもう私達のグループの一部で、彼女が居ないとなんだか物足りなかった。私達三人は、集まるといつも光の話をしていた。みんな、彼女のことが好きだった。私の好きだけは、二人とは違うものだったけど。
「光のバイト先に凸する?」
「それはちょっと。迷惑になっちゃう」
「でもさぁ……ちょっと心配じゃない? 変な男に騙されて貢がされたりしてないと良いけど」
「……鈴木くんは会えてんのかな。光ちゃんと」
「……光さ、あたし達に何か隠し事してる気がするんだよね。で、鈴木だけはそれを知ってる。なんか、そんな気がする」
明凛が言う。
「鈴木に秘密握られてるってこと?」
そういうことではないことは分かっていた。だけど、そういうことにしたかった。
「鈴木はそんなことする奴じゃないよ」
「分かんないよ。裏では何かやってるかも。良い人すぎて逆に怪しい」
「まぁ、そう疑いたくなるのは分かるけどさぁ……」
私は鈴木のことが嫌いだった。彼女に好意を持たれている彼が。要するに、醜い嫉妬だった。
鈴木は良い人だった。どれだけ探しても、非の打ち所は見つからなかった。そこがまた嫌いだった。嫌な奴だったら『やめとけそんな奴』と言えたのに。
「……冗談よ。鈴木が良い人なのは知ってる。……だから光も、好きになったんだろうね」
「月華ちゃん、ほんと光ちゃんのこと好きだよね」
「……大事な親友だもの。明凛と夕菜と同じくらい」
だから心配するのは普通のこと。そう自分に言い聞かせるけれど、自分はもうとっくに分かってしまっている。その好きが、明凛と夕菜に対する好きとは形が違うものであることを。
私は、毎晩毎晩、光のことを考えている。光のことだけを考えている。私の脳を、あの子の笑顔が侵食している。
触れたい、触れてほしい。そんな欲望に駆られて、彼女の手に見立てた自分の手で何度も自分を慰めて、その度に自己嫌悪して、いっそ出会わなければ良かったとさえ思った。殺してくれとさえ思った。
体育の時間、着替える度に彼女の方を見ないようにしていた。それでもうっかり視界に入ってしまった彼女の艶かしい裸体が、高校生になった今でも脳裏に焼き付いて離れない。自分を慰める時に嫌でも浮かんでくる。
そんな欲望を奥底に押し込めて、私は生きてきた。これからもそうやって生きていくつもりでいた。
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