第3話〜ユメリアと村の友達〜

「じゃあパパ!村に行ってくるね〜」


「ああユメ、今日も暗くなる前には必ず帰って来るんだぞ〜」


ユメリアは笑顔でエクスムンドと別れると、そのまま村へ向かって元気に走り出した。

迷いの森を抜けた場所にその村はある。

村の名は「メシアス」と言い、多種族がお互い争うことなく平和に暮らしている。


「ハンナおばさ〜ん!おはようございま〜す!!」


「ああ、ユメちゃんかい!おはよう、今日も元気いっぱいだね」


「えへへ、可愛さと元気が取り柄だもん♪」


「おばさんも可愛いユメちゃんの笑顔を見るとパワーがみなぎって来るよ!今日もいっぱい遊んでおいで!!」


ユメリアはハンナおばさんに挨拶すると、そのまま元気よくみんなとの待ち合わせの教会へと向かう。


「おっ待ったっせ〜っ!みんなのアイドルユメちゃんただいま参上ぉ!!」


「ああユメちゃん、おはよう!今日も元気いっぱいだね…」


シバは、優しい笑みを浮かべながら彼女に挨拶する。


シバ・オンダーソン

メシアス村の村長クリスの息子。

とても優しい性格で村の女の子たちからの人気も高いユメリアの想い人。

勇者の父の血をしっかりと受け継いでおり、その高い身体能力と剣術の腕は村の大人たちを圧倒するレベルである。


「おうユメリア!やっと来たか〜!しゃあッ!今日は何して遊ぼうか〜!」


ガイは、ユメに負けず劣らず今日も元気いっぱいの様子である。


ガイ・ガンドリッツ

メシアス村の拳術道場師範ガモンの息子。

とても元気いっぱいのハーフビーストの少年で、イタズラが大好き。よくシバとロキを巻き込んではイタズラを敢行し、村の大人たちを困らせている。しかしイタズラ好きではあるが、根は優しくまた大変情に脆く、目の前で困っている人がいたら放っておけない性格である。

拳術道場師範の息子かつビースト族の高い身体能力により、かなりの戦闘力を有している。

最近はゴミ捨て場にあるエロ本を拾っては、それを大事にコレクションすることがマイブーム。


「ふふふ、ユメリアさん。今日もアナタのステキな笑顔を見れて光栄です。さて、今日はいったいどんな一日になるか…楽しみですね!」


ロキは紳士的な立ち振る舞いをして、ユメリアを迎えた。


ロキアン・フォンドヴェルツ

メシアス村一の資産家ワラキアの息子。

物腰丁寧で誰に対しても分け隔てなく接する紳士的なハーフヴァンパイアの少年。またかなりの甘いマスクの持ち主であり、村内の女性から絶大な人気を誇る。

実はかなりの自身家であり、吸血行為が禁止されているにも関わらず、ファンの女の子の血を内緒で吸うなど、ガイとはまた違ったベクトルで問題児である。またかなりの怪力を有しており、その腕っぷしは相当なモノである。


「ユメちゃんちょっとぉ!シバにくっつきすぎよ〜!ほらシバだって困ってるから早く離れなさいよ〜〜〜っ!!」


ソフィアはシバにくっつくユメリアを力づくで引き剥がそうとする。しかしユメリアも負けじと手に力を込めて抵抗する。


ソフィア・ラミル

メシアス村の道具屋の店主ロイドの娘。

仲良し6人組の中でシバを除いて唯一の人間の少女である。性格は強気で男勝りだが、大好きなシバの前では乙女な一面を見せることも多い。

ユメリアの恋のライバルであるが、2人とも「普段は」とても仲が良い。しかしシバが絡むと途端にお互い険悪になり、マウントを取り合ったり足を引っ張り合ったりする。


「あらあら〜、来て早々…、もっと仲良く〜仲良くいたしましょうよ〜おふたりとも〜うふふ」


シルクは、歪み合うふたりをふんわりとした雰囲気で嗜める。


シルク・コットン

メシアス村で食堂を営むシルビアの娘。

とてもおっとりとした性格で、独特な価値観と世界観を持った不思議ちゃんのハーフサキュバスの少女。サキュバスの血を引いているせいか、身体の発育が14歳とは思えない凄まじいレベルのモノであり、村の少年たちや一部の大人たちから人気も高い。また彼女のファンクラブまで存在している。

幼い頃に父を亡くしており、そのせいか父性に飢えているところがある。

シバを取り合って喧嘩しているユメリアとソフィアをなだめるのが、いつもの彼女の役目であるが、実はシバに好意を持っており虎視眈々と彼を狙っている。


「あはは、ユメちゃんにソフィア、そんなに強く引っ張られたら僕の腕がちぎれちゃうよ~弱ったな…」


「おうおう~、モテる男はツラいなシバぁ!」


「正に『両手に花』ですね、しかし、その…あまり羨ましく思えないのはなぜでしょうかね…?ハハハ、相変わらずスゴい迫力です、おふたりとも」


「あら…?みんな~おはよう〜!こんな朝早くから教会の前でなにしてるのかしら?」


一同は声のした方を見ると、教会の入り口から美しい女性が出て来た。


「あっ!『シスターテレサ』!おはようございます!!……まぁ見ての通りです…」


テレサロッド・H・マスカベール

メシアスの村の「聖マスカベール教会」でシスターとして働く人間の女性。

とても美しい容姿をしており、村の男性たちからの人気も高い。趣味は料理と野菜作りで、毎日暇があれば愛情込めて野菜作りに励んでいる。また彼女の手作りクッキーはかなりおいしいと評判である。そんな彼女だが、実は誰にも言えない秘密を抱えている。それは『人一倍性欲が強い』ことである。また自室には大量のエロ本と「自家製の玩具」があり、人知れずこれらを使って毎晩「聖女らしからぬ淫らな行為」に及んでいる。しかし彼女はこの行為を「浄化」だと言い張っている。ナニやらシスターテレサには、彼女なりの強い信念と使命のようなモノがあるようだ…。


「あら~、その、なんと言うか…『修羅場』みたいね…。コラ~!ふたりとも、仲良くしなさいと何度言ったらわかるの?シバくんも困ってるじゃない」


「え~だってユメは悪くないもん!ソフィアちゃんが離れればすべて解決じゃない!」


「何よ~!ユメちゃんが離れなさいよ~っ!」


「でもでも~こう言う場合~、シバくんのことを本当に心から思っているならば~、先に手を離すのが最善なのではないでしょうか~?だってだって~このままじゃ~シバくんのお手手がちぎれちゃいますよ~」


シルクのこの言葉を聞いたふたりは、ほぼ同じタイミングで手を離した。しかし今度は「自分が先に手を離したから自分の方がカレのことを大切に思っている」と激しい言い争いが勃発する。


「コラ〜!ふたりともいい加減にしなさ〜い!!もう~喧嘩をやめないアナタたちふたりには罰として、今日一日私と一緒に、教会内のお掃除と野菜栽培のお手伝いをしてもらいます!」


「あっ…、それだけは勘弁して…ユメちゃん、その…ごめんね」


「シスターテレサ、ユメ…、悪い子でした。悔い改めます。ごめんねソフィアちゃん」


「あはは、仲直りしてもらえてよかったよ~!あと手も離してもらえて…」


「まーこんなんいつもの事だけどな〜」


「まったくですね~ヤレヤレ…さて、それでは皆さん、改めて本日はどういった予定で行きますか?」


少年少女たちはこれからの予定について語りあった。その結果、とりあえず「秘密基地」に行くことで話は固まった。

秘密基地とは、教会の敷地内にある物置きをシスターの許可なく勝手に占拠して作った彼らの共有空間である。

物置きと言っても中々の広さを有しており、改築による改築を重ねた結果、やろうと思えば普通に生活が出来るレベルの超快適な基地となっている。特に親と喧嘩してプチ家出をした際などに重宝され、その際ご飯は料理上手のシスターが持って来てくれ、お風呂は教会内の物を使わせてもらえる。


「シスター!今から秘密基地使うからカギ貸して〜」


「あら、りょ〜かい!ちょっと待っててね!」


そう言うとシスターテレサは、その場を後にする。数分後カギを持って彼女は戻ってくると、ユメリアにカギを渡す。


「みんないい?くれぐれも秘密基地内で火は使わないこと!あと帰る際には、お掃除してカギは必ず私に返却する事、以上!」


『はーーーーい!!』


「うふふ、後で焼きたてのクッキー持って行くわね♪」


そう言い残すとシスターテレサは教会内に戻って行った。そしてユメリアたちは、カギを使い秘密基地に入った。

秘密基地内はみんなの持ち込んだ私物が丁寧に置かれており、掃除もしっかりとされ綺麗な状態が維持されている。これはみんながいない時に、シスターテレサが掃除をしてくれているからである。


「そうだ!早速だけどよ、ちょっとコレ見てみろよ~!」


そう言うとガイは、自分の私物のスペースから一冊の本を取り出すとみんなに見せた。それはなんとエッチな本だった!しかもカバーは「かわいい動物大百科」に差し替えられており、巧妙なカモフラージュがなされていた。


「ガイくん、サイテー」


「ちょっ、ちょっとぉ〜!なによそれ〜!信じられないわぁ!男の子ってホントにエッチねぇっ!!」


「あらあら〜いやらしいですわね〜でもでも~同時にそれは…とってもとっても〜興味深いモノでもありますね〜ウフフフ〜ドエッチ~~~キャッ♪」


女性陣から軽蔑の言葉が飛び交うも、ガイはそんなのモノともせずに、エッチな本を読みはじめる。ロキもクールを装いながらも、いっしょになって読みはじめた。


「うお〜っ!マジかよぉ〜!!オトナって本当にスゲ〜な〜ゴクリ…」


「ふむ、…これはなんとまぁ、なんて過激な内容なんでしょうかね…」


「あ、あの…その、僕も……」


シバも勇気を出して参戦を試みる。しかしそんな少年の行く手を3人の少女が阻む。


「シバくん、ここを通りたければユメたちを倒していきなさい!」


「シ〜バぁ〜っ!『アタシ』と言う最愛の者がありながら、あんなしょうもないモンに興味を持つだなんて…許さない、ぜっっっっったいにそんなの認めないからッ!!!」


「……シバくん、あんなしょうもない本で満足…本当に出来ます?…よろしければこのワタシが『生身の女』の良さ、…教えてあげましょうか?」


「えええええっ!?そんな〜僕だってその…『そう言う物』に興味がある年頃なのにな〜……ん?『生身の女』の良さって、なに…?」


「あーシバくんは子供だなぁ〜、そんなこともわからないのー?ユメはもちろん知ってるよ~!ソフィアちゃん、常識だよね〜?」


「えっ?え、えええっ!と、当然じゃな〜い!そんなこと知ってるに決まってるじゃな〜い!!」


「だよね〜!『ぎゅーっ』ってしたり『ほっぺにチュー』したりすることだよね〜」


「そうそう!『ほっぺにチュー』ってところがポイントよね!『お口のチュー』は結婚してから!なぜならコレをし過ぎると『赤ちゃん』が出来ちゃうからねぇ〜!!」


「………ウフフ、ふたりとも…、お可愛いこと…まぁとにかく〜シバくんは〜ワタシといっしょに、…向こうで仲良く楽しくコミニュケーションしましょう〜」


そう言うとシルクは、自分の豊満な胸でシバの腕を挟み込むような形で抱きつくと、そのまま部屋の奥に引っ張りはじめる。それを見て焦ったユメリアとソフィアも競うようにシルクのマネをする。しかしふたりの「慎ましい胸」でこの技は再現不能であった。それから数時間後…たくさんのクッキーを焼いてシスターテレサがやって来た。


「うふふ、今日も気合い入れていっぱい焼いちゃった~♪みんな喜んでくれるかしら〜」


シスターテレサが秘密基地の前に来ると、少年少女たちの楽しげな声が聞こえてくる。


「ええ〜っ!?ナニコレナニコレ〜!ウソ…どういうことなの……」


「あーコレね~。パパとママもよくユメの目を盗んで、こんなようなことしてるよ〜」


「あらあら〜ユメちゃん、…もっとそのこと詳しく〜」


「ったく!結局女子たちも興味深々かよ〜」


「フフ、まぁいいじゃないですか〜!みんなで仲良く大人の階段を登りましょう!」


「……僕だけなんで目隠しされた状態なんだろう…ヒドい、イジメかっこ悪いよ…」



(ウフフ、なんだかんだでみんな本当に仲良しね。この子たちにはずっとこのまま、いまのこの「綺麗で美しい穢れなき心のまま」で、…大人になってもずっといてほしいわ…)


「みんな〜焼きたてのクッキー持って来たわよ〜!さあおやつの時間にしましょう!!」


シスターテレサが部屋に入ると、少年少女たちが慌てた様子で、近くのクッションの下に何かを隠したのを彼女は見逃さなかった。


「あっ、シ、シスターテレサ!クッキーありがとう…いや〜ちょうど腹が減ってたんだよ〜なぁみんな〜!」


ガイは珍しくとても動揺していた。彼だけではない、他の子たちも落ち着きがない。そしてさりげない様子でクッションの上にユメリアが座る。


「……アナタたち、この私に隠れて『何かとってもやましいこと』してなかったかしら?ユメちゃん、クッションの下にある物を見せなさい…」


「えへへ、なんのことかな〜シスターテレサ!そんなことよりユメね、はやくクッキー食べたいの〜」


「じゃあ~そのクッションの下に隠した物とクッキーの交換ね♡」


そう言うと笑顔を浮かべながらシスターテレサはユメリアに近づく。


「来ちゃダメ〜!!!!!」


ユメリアは抵抗を試みるも大人相手ではなす術なく、クッションの下の物を…エロ本を没収されてしまった。


「…!?アナタたちぃ…ッ!こんな…こんな『穢らわしい物』を…いったい、いったいどこで……!!」


ガイはシスターテレサの気迫に負けてすべてを打ち明けた。


「ゴミ捨て場で拾ったんだよ~、カンベンしてくれよシスターテレサ!オレの大切な宝物のひとつなんだよ~!だから返してくれよ~!」


「いけません!こんな穢らわしい物は私が没収します!ああ『浄化』を、早く浄化をして『清らかな物』にしないと…はぁはぁはぁぁぁ……あん♡コホン…とにかくクッキーを食べる前に、みんなには今からお説教をします!!……あとなんでシバくんだけ目隠しを?まさか『目隠しをして心の眼を使いエロ本を読むことで、より興奮が出来る』とでも…!?これは『高度なプレイ』かナニかなのかしらぁっ!?シバくんには、アナタの将来のためにも私は心を鬼にして、特にキッツくお説教するわね!!」


「そ、そんな~~~ッ!!!」


こうしてシスターテレサからの長い長いお説教タイムがはじまった。そしてその後、無事お説教から解放されクッキーにありつくことが出来た少年少女たちだったが、日も落ちて来たのでそろそろ解散することにした。


「ああ~なんか今日はひどい目にあったよ…。僕は何にも悪くなかったのに……」


「あ~俺も最悪な気分だぜ~、せっかくのお気に入りの一冊があ~」


「まぁまぁ、すべて没収されてないだけいいじゃないですか!まだあるんでしょう?たくさん…」


「もう~ガイくんのせいで、ユメたちまでお説教されちゃったじゃない~あ~あ~、まだみんなでもっといっぱい遊びたかったな~!でもそろそろ帰らないと…パパに怒られちゃうし、残念…」


「アタシもパパとママが心配するから、そろそろ帰るね~シバ、またね♪愛してる~!!」


「ワタシは~夜遊びして帰ります~それでは皆さん、ご機嫌よう~今日も楽しかったです~」


こうして少年少女たちは各々帰路についた。しかしユメだけはひとり教会の中に入って行った。


「あら、ユメちゃん。どうしたの?」


シスターテレサは台所で美味しそうなシチューを作っていた。


「シスターテレサ、そう言えばパパから伝言を頼まれていたの…」


「…!?ほ、本当ですか~!う、嬉しい…!!エクスムンドさまから私に…早く教えてユメちゃ~ん!ねぇねぇ~は~や~く~ぅ!!」


シスターテレサは、目を輝かせながらまるで子供のようにはしゃいでいる。普段の彼女からはとても想像も出来ないほど、それは可愛らしい少女のようなリアクションであった。


「シスターテレサは、ホントに欲しがり屋さんだな~!パパね、スッゴく喜んでたよお野菜。シスターの作るお野菜はどれも最高だってさ。よかったねぇ~」


「……♡ああん、そ、そんな…ヤダ、嬉し過ぎて体がアツくなって来ちゃった……このシチューのようにとろけてしまいそうだわぁ…はぁあああん♡」


「……じゃあそれだけだから帰るね~おやすみシスターテレサ!」


「あっ!待ってユメちゃん!今からいっしょに夕ご飯食べない?美味しいシチューをたくさん作ったの!どうかしら…?」


「え~大変魅力的なお誘いですが、遅く帰るとね、パパがスッゴくうるさいからね、その…今回はご遠慮させていただきます…」


「ああん!そんな~つれないわねぇ!もしかしたらねユメちゃん、いずれ私はアナタの『ママ』になるかも知れないのよ~」


「……ユメのママは『ふたり』で十分です。じゃあおやすみ~!パパにシスターテレサが喜んでたって、ちゃんと伝えとくからね!!」


「あっ!待ってユメちゃん!せめて、せめて今日取れたお野菜とこの美味しいシチューを持って行って!!」


こうしてユメリアはシスターテレサからたくさんの野菜とたっぷりのシチューを貰うと帰路についた。


「シスターテレサ、パパのどこがいいんだろう?まっいっか!たくさんのお野菜とシチュー貰えたし、パパも喜ぶだろうな♪」


ユメリアは夜道を恐れない強い心を持っていた。そもそもメシアス村と迷いの森付近は凶悪な魔物は生息しておらず、また治安もとても良好であり、そもそも危険とは無縁なのであった。しかし…ユメリアは何者かが、ずっと自分の後を着けている気配を感じていた。


(さっきから…誰だろうな?うう、シスターテレサにお願いして、家まで着いて来てもらうべきだったかな?…ユメ、怖くない、怖くなんかないもん!だってユメは強い子だから…強い子だから、強い子だから!今までだってそう…、ツラくて悲しいことがいっぱいあっだけど、…負けずに頑張って生きて来れたんだもん!!)


迷いの森の入り口付近に差し掛かった時、ユメリアは勇気を出して大声で叫んだ。


「さっきから誰ぇ!?ユメの後をコソコソ着けて来るのわぁ!いい加減に姿を現しなさい!!」


「ウフフ~バレちゃいましたか~ユ~メちゃ~ん、怖がらないでぇ~」


すると暗い森の木の影からひとりの少女が姿を表す。その正体はなんとシルクだった。


「シ、シルクちゃんか~!もう驚かせないでよ~っ!ユメ、不審者かと思ったわ!」


「ウフフ~実はですね~ユメちゃんに渡し忘れた物がありまして~はいコレ~」


シルクはそう言うと一枚の手紙を彼女に手渡した。その手紙には「親愛なるエクスムンドさま」へと書かれている。


「……『シルクちゃんも』本当に趣味悪いねぇ」


「ウフフ、ユメちゃんは本当にウラヤマシイですよね~ワタシもあんなステキなパパが欲しいですもん…」


「いつも言うけどこんなの直接渡せばいいのに…毎回毎回ユメ経由でさー、イヤになっちゃうわ~」


「ウフフ~……だって、だって直接渡すだなんて、恥ずかしいんだもん…顔だって直視できないもん、それにね、もし『理性のストッパーが外れたり』なんかしたら、ワタシね『色々と抑えられそうにない』と思うから…」


「ユメは子供だから、シルクちゃんの言ってることよくわからないな~!でもりょーかい。パパにちゃんと渡しておくね」


「……♡ユ~メちゃん!今度またい~っぱいお礼しますね~それではグッドナイト~ウフフフ~」


ユメはシルクと別れるとそのまま急いで家に向かって走った。友達だったとは言え、やはり『恐怖』という感情を一瞬でも感じてしまったことに変わりはなかったからである。

ユメリアは家に到着すると、笑顔を作り元気よく家の扉を開けた。


「たっだっいっま~!パパのアイドルユメちゃんご帰宅ぅっ!!」


「ああユメ、お帰り!今日は少し早かったね!」


「えへへ、パパの顔が早く見たくなっちゃったからねぇ♪あとパパの娘だからじゃないかな~早いのは?ママもパパによく『早い!』っ言ってるしね~」


「!?な、なんのことかなぁぁぁ?ユメ、さぁもう夕飯にするぞぉ!!…ったく」


「あっ!そうだパパ~、シスターテレサからね、たくさんのお野菜とシチューもらったよ~」


「テレサか…あの子にも色々と気を使わせてしまっているみたいだな…今度またお礼をしに行くとしよう」


「シスターテレサってホントにパパのこと大好きだよね。なんでなのかしら~?悪趣味~」


「悪趣味って…おまえな……テレサはな、少女の頃からずっと俺に懐いているんだよ…本当に可愛い娘さ」


「ふーん、なんかパパといつか結婚したいみたいなことをよく言われるんだけど…『浮気』するの?」


「あのな~前にも言ったが、俺にとってテレサは大切な娘みたいなもんだぁ!父親を無くして悲しみに暮れていたあの子をだな、しばらくの間引き取って育てたのが、たまたま俺だっただけだ!テレサの父親には俺も世話になったからな!多分その時の感謝の気持ちからくる『大人の俺への憧れ』や『淡い恋心』というモノをだな、いまだに引きずっているだけなんだよ!!」


「ふーん、そっか~ユメね、子供だから大人のそう言う難しい事情わかんない!あとこれも渡すね、はい手紙…」


「うう…『また』シルクちゃんか……ありがとう」


「パパ…シルクちゃんの手紙に、いつも何て書いてあるの~?」


「それは言えないぞ…ユメ。プライバシーというモノがあるからな…ただまぁ、あの子もさみしいのだろうな…今度は『直接』渡しにおいでと伝えといてくれないかユメ」


「ヤダ…」


「ユメ、友達だったらいいだろうそれぐらい…」


「だってなんかねぇユメ、…スッゴくムカつくんだもん!ママとユメ以外でパパに近づく女は、ユメは絶好に認めません!!」


「うう……ちなみにユメは、パパのことをどう思っているんだい?」


「大好きだよ…スッゴく大好き。もう大好き過ぎるからさ『いちいちこんなこと』わざわざ言葉にする必要もないよね?パパ…」


「ユ、ユメちゃぁああ~~~ん!!!!!」


エクスムンドは思わず心の底から込み上げてくるアツい感情を爆発させてしまった。

ユメに対しての愛が、いま激しく荒ぶり高ぶり彼の感情をぐちゃぐちゃにする。


「パパ…何『メス堕ちしたオンナ』みたいな顔してるの、ユメね、激しくドン引きしております。トラウマになっちゃうかも…」


「……本当にパパの大好きなのか?」


「うん♪だ~い好き!もう二度と言ってあげないけどねぇ~!!パパ…じゃあご飯にしよう!!!」


「……そうだな!テレサからもらったこのシチューもあることだし、急いでご飯の支度しようか!!」


この日ふたりはテレサのシチューと他の料理を食べながら幸せな時間を過ごした…。

「どうかこの幸せな時間が未来永劫つづきますように…」とエクスムンドは心からそう願った。しかし…この『世界』はそれを許してくれないだろう。なぜならユメリアの背負った運命とは、とても過酷で残酷なモノであり、彼もそれをよく理解していた…。それでも彼女を守りたい、彼女を幸せにしたい……。

かつて破界の魔王と呼ばれ恐れられたひとりの男は、改めて少女を守ることを誓うのであった。(つづく)





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