第2話〜災厄の魔王エクスムンド〜

「俺が憎いか人間ども!俺は逃げも隠れもせんぞぉ!そして愚かにも人間の仲間に加わった他の種族ども、よく聞け!貴様たちも同罪だあっ!根こそぎ滅してやるぞ!さあ遠慮はいらん、全員まとめてかかってこい!フハハ、フハハハハハハハッ!!」


人間と魔王エクスムンドの激しい戦いは700年も続いた。

エクスムンドが世界から人間をすべて滅ぼすと宣言してから、多くの人間たちが彼によって殺された。

人々は彼を憎み、彼を打ち倒すために団結した。そしていつしか人と魔王のこの戦いは、他の種族をも巻き込んだ大きな戦争へと発展したのである。


「どいつこいつ歯ごたえがないヤツばかりだな。どうした俺が怖いか人間ども!」


エクスムンドは容赦なく多くの命を一瞬で消し去っていく。そんな彼の前に1人の男が立ち塞がる。


「エクスムンド!世界のため、平和を願う者たちのため、そして貴様に殺された仲間たちのため……ッ!オレは今日こそ貴様を討つ!!」


その男の名はクリス・オンダーソン。

過去に2度、エクスムンドを倒した名家「オンダーソン」出身の勇者である。

彼は巨大な聖剣「斬魔刀」を構え、エクスムンドと対峙した。


「おおッ!勇者クリス・オンダーソンかぁ!貴様だけだな、今この世界で唯一、この俺とマトモに戦える者は!いいだろう、今日こそ決着をつけようか!!」


そして勇者と魔王の戦いが始まる。クリスは瞬時に間合いを詰め、斬魔刀による渾身の一撃を放つ。しかしエクスムンドはそれを軽々と受けとめると、反撃の掌打を放つ。


「ぐはあああッ!?」


クリスは勢いよく吹き飛ぶと巨大な岩に激突する。


「どうしたクリス!今度はこちらからいくぞぉおお!!」


エクスムンドは魔力を込めた拳の連撃をクリスに叩きこむ。

この繰り出される一撃一撃が必殺の威力、もしマトモに受けてしまえば…、例え屈強な勇者であるクリスでもタダでは済まない。


「ううう、グゥッ!…そこかぁ!!」


クリスは巨大な斬魔刀の剣の腹を使いこの猛攻を耐え凌ぐと、一瞬の隙を突きエクスムンドの腕を掴み、そのまま勢いよく地面に叩きつける。そしてすかさず追い討ちで、斬魔刀を勢いよく突き刺した。


「やるな!さすがは俺の好敵手(ライバル)!だが…ッ!!」


エクスムンドは斬魔刀の突き刺し攻撃を回避すると、一瞬で体勢を整え渾身の蹴りで反撃する。


「避けらまい!死ねぇい!クリスぅ!!」


「うおおおお!!まだだぁああああああッ!!!」


クリスは、斬魔刀を地面から勢いよく引き抜くとその力を利用し、エクスムンドの蹴りを受けとめながら、そのまま力任せに薙ぎ払う。


「おおおおおっ!?素晴らしい攻撃だクリス!!やはりオンダーソンの人間は昔からずっと脅威だな…だがその中でもクリス、お前が最強の勇者だぞ!!!」


「はあはあはあ、…はぁあああッ!エクスムンド、これで終わりだあっ!くらえ!魔断憤怒吼(まだんふんぬこう)!!吹き飛べえぇええええッ!!!」


クリスは、片手を前に突き出すと、手から膨大な「闘気」を放出する。

闘気とは、「気」を攻撃に用いることを目的に生み出された『破壊に特化した気』のことである。使いこなすにはかなり鍛錬が必要であり、陰と陽の2つの気を絶妙なバランスで練ることで、この爆発的な破壊力を持った闘気が完成する。


「相変わらず凄まじい闘気だなクリス!面白い、ならばパワー比べといくかぁ!!」


エクスムンドは、両手を前に突き出し強大な魔力を手に集中する。その形成された圧倒的な魔力を前に、周囲の者たちはみな恐怖し、その場から動けなくなってしまう…。


「さぁいくぞクリス!エターナル・エクスブレイザーーーッ!!」


この凄まじい力と力の衝突に周囲のあらゆるモノが吹き飛んだ。


「うううぉおおおおおあああああ!!エクスムンドーーーーーーッ!!!」


クリスの闘気は非常に強大であったが、より強大な力を前にして、徐々に押されはじめる。


「さて、そろそろ遊びは終わりにするか…クリス」


そう言うとエクスムンドは、魔力を全開にする。


「ぐあっ!?まだ…そんな力がぁぁぁ!!う、うわあああぁぁぁあああああッ!!!」


膨大な魔力の激流に飲み込まれクリスは、そのまま姿を消した。辺りは静まり返り、エクスムンドの笑いだけがこだまするのであった…。


「フフフ、フハハハハハハハハ!ハッハッハッハッハ〜〜〜ぁぁぁッ!!」


(ふにゅ)


突然彼の両手を柔らかい感触が包む。


「…?なんだ?この感触は??」


(むにゅ)


すると突然、耳をつんざくような少女の悲鳴と同時に、エクスムンドは誰かに顔を思いっきりビンタされた。


「!?イッテーーーー!なんだぁ!?えっ、ここは…そうか、ゆ、夢か…また嫌な夢を見てしまったな……」


「パ・パ・?」


(んっ?その声は…ユメか?)


目を擦ると、ボヤけた視界がハッキリしてくる。そこには両手で胸を押さえながら、彼のことを睨みける娘の、…ユメリアの姿があった。


「ユメ、そんなところで…俺の上に乗っかって何してるんだ?」


彼が不思議そうにそう尋ねると、ユメリアは怒りながら抗議する。


「パパがこんな夜遅くに、一人で大騒ぎしてるから眠れなかったの!だから怒って文句を言いに来たのよぉ!…そしたら急にユメのオッパイを…バカ!エッチ!!ロリコン!!!もうぜっっっっったいに許さないんだからぁッ!!!!もうしばらく口も聞いてあげません!プイッ!」


ユメリアはエクスムンドをぽかぽかと何度も叩いた後、そう言い放った。


「す、すまんユメ!その、…ちょっと『昔の夢』を見ていたみたいでな…なんと言うかだ、その…、とりあえずワザとじゃないんだよ!って!そんなところにいたお前もちょっと悪いんじゃないかな~!?」


「言い訳はよして!耳が腐るわぁ!!」


「ユメ、またそんな汚い言葉を…はあ~一体どこで覚えてくるんだか……」


エクスムンドは少し呆れた様子で、ユメリアに尋ねる。


「パパ!そんなこと今はどうだっていいでしょ!!…ったくまだ『シバ君』にだって触らせたことないのに~…」


ユメリアが少しモジモジした様子でそう答えると、エクスムンドは瞬時に反応する。


「シバ君?…!?なあっ!ユ、ユメぇ!シバ君ってあの村長の、…『クリスの息子』のことかぁ!?ダメだあっ!ぜっっっっったいにパパは認めません!!!!!」


「えーパパには関係ないでしょ。シバ君ってさ、ユメにスッゴく優しくてね。ちょ〜カッコいいのよ♡」


「いや、その、なんと言うか、だな…。パパさ、ちょっと苦手なんだよ、あの少年……」


エクスムンドの取り乱した様子を見て、ユメリアは何かを察した様子で、急にニヤニヤとし始める。


「?何だユメ、急にそんな顔して…」


「パパ〜ン、もしかて『ヤキモチ』妬いてるの~?」


「いや、そういうのじゃあなくてなぁ!つまりは、その…」


「隠さなくてもいいよ-!しょうがないな〜もう!オッパイ揉んだことは、特別に許してあげるぅ!あとユメのことが大好きで仕方ないパパのために、今日は朝まで特別に一緒に寝てあげるね!!」


(なんか納得いかないな~…特別特別って、…ってか時々『パパさみしいの…』って言いながら可愛く甘えてくるもんだからさ、一緒に朝まで寝てやったりしてるだろうに……)


そう言うとユメリアは彼の布団の中に潜り込んでくる。


「おいおい、何度も言ってるがこのベッド狭いんだぞぉ!もう少しスペースを考えろ!!」


「だいじょーぶ!ユメちゃんは小柄な美少女だから問題ないよぉ~♪」


「『美少女』ってお前、自分でそれを言うか普通?」


「自分で言っちゃいます♡だって本当のことだも~ん♪それにパパは『ママ』が帰って来た時、2人で仲良く朝まで寝てるじゃない!ならユメだっていいでしょおおおっ!!ってかパパとママさ~…スッッッゴい声を出してるよね……裸で抱き合って何度もチューしたりもしてるし、普段見ることのないパパとママの一面に、ユメは激しく困惑しております…。ねぇパパ、ユメに隠れていつもママとナニしてるの~?」


「ナ、ナニもしてないぞぉ!ってかユメ〜!まさか毎回起きていたのかあっ!?何度も『ユメ寝たか~?』って確認したら『むにゃむにゃ、パパとママ大好きだよ~』ってかわいい寝言を聴かせてくれたじゃないか!!」


「エヘヘ、狸寝入りだよ〜♪」


(……末恐ろしい子だ…)


「ねぇパパ、ママにしてるみたいにユメのこともギュ~ッてしてよ~」


「いやちょっとお前……ママとのアレは…はぁ~、わかったわかった。それ!ギューーーッ!!」


エクスムンドは、力の加減をしながら愛する娘を強く抱き締めた。


「嬉しい…、エヘヘ♪パパにこうしてもらうとね…なんだかね、スッゴくね、…安心するんだ………パパ、ありがとう」


「愛してるよユメ、おやすみ」


「おやすみなさい、パパ」


ユメリアは安心したのか、そのまますぐに眠りについた。

愛する娘のかわいい寝顔を見て、エクスムンドはとても幸せな気持ちに包まれていた…。

「こんな気持ちを忘れてしまっていたあの時の自分は、なんて不幸だったのであろう」とカレは思った。


「ああユメリア、愛するわが娘よ。俺が絶対に守ってあげるからな。もう誰もこれ以上、お前のことを傷つけたり苦しめたり悲しませたりなんかしないよ…だから安心して今日もお眠り……」


エクスムンドは改めてユメリアの幸せを願うのであった。(つづく)



















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