ハートフルライフ~元魔王とハーフエルフ少女のちいさな物語~

トガクシ シノブ

第1話~元魔王とハーフエルフの少女~

ここは基本的に誰も近寄らない迷いの森。そこにかつて魔王と呼ばれ恐れられていた男とハーフエルフの少女がひっそりと暮らしていた。


「パパ~おはよう!いつまで寝てるの?起きて!ねぇ起きてっ!むぅ~、・・・・・起っきろー!!朝だぞぉぉぉぉっ!!!」


ハーフエルフの少女ユメリアは、今日も朝からとても元気いっぱいである。


「もう少し寝かせてくれよ、俺は朝は本当に苦手なんだ。・・・んっ?まだこんな時間じゃないか~。カンベンしてくれ~、ユメ・・・」


朝が苦手な魔王エクスムンドは、布団から中々出てこようとしない。


「いいから起きなさい!メ~レ~!メ~レ~!!」


「わかった、わかった。ったく、お前に『メ~レ~』されちゃ仕方ないな~。起きればいいんだろ?起きれば、まったく…」


エクスムンドは仕方なく起きると、洗面台の前に行き、顔を洗う。


(はぁ~、またちょっと老けたかな?若い頃はもうちょいイケメンだったのにな~、ん〜…いや待てよ「哀愁漂う大人の色気」ってやつは日に日に増してきてるかな?…やっぱ俺もまだまだ現役だな!)


そんなことを考えながらニヤニヤしている彼に対し、ユメリアは「ひとりで鏡を見て、何ニヤニヤしてるの?キモいし臭いよパパ」と辛辣なことを言う。


「いや、キモかったとしても臭くはないぞ!ってかお前、また口が悪くなってきてないか!?さてはママと友達の女の子たちの影響かぁっ!ソフィアちゃんと『いつもパパに不思議な手紙』をくれるシルクちゃんの影響だな~!ったく!ママには今度俺からキツく言っとくとして、いいかユメ、いくら仲良しだったしてもだ。その2人が『変な言葉』を使っていても、絶対にマネして使っちゃあダメだぞ!あと何千何万と口が辛くなるほど言っているが、村の不良の男の子たちとは絶対に、ぜーーーったいに仲良くしちゃダメからな!!!」


「パパは過保護すぎるよ~、シバ君もガイ君もロキ君も悪い子じゃないのに…て言うかさ、ユメもそろそろステキな彼氏がほしいよ~!…まっ、そんなことよりさ!ユメね、お腹空いちゃった!何か作ってえ~♪パパおねがーい!!」


「今、何か聞き捨てならないことが聞こえたが…まー、いいだろう。俺も腹が減ったし、そろそろ何か作るかな!」



「ご飯♪ご飯♪まだかな~まだかな~♪♪」


ユメリアは、待ちきれないとばかりに両手にナイフとフォークを持つと、それらを擦り合わせ「カチカチ」と音を鳴らしながら、テーブルの前でスタンバイしている。


「ユメ、お行儀が悪いぞ。…しかし俺が料理か…、この子と暮らすことにならなければ、料理なんてマトモにすることもなかっただろうに…」


エクスムンドは『不死に近い存在』ゆえ、基本何も食べなくても生きていけた。そのため料理どころか食べることにすら関心がなかった。そんな彼がユメリアと暮らすようになってからは、村の料理教室に通い必死に料理の腕を磨いた。その努力が実り、今ではプロの料理人顔負けの料理のスキルを会得することに成功したのである。


「ほら、出来たぞ!俺のスペシャルな朝飯『魔王風コレ超激うまくね?いや、どうかな?目玉焼き』と『猫舌殺しのあっつ!コレ超あっついて!!スープ』と『近くの川で釣った名も知らぬ魚の塩焼き』と『ただの白いご飯』と『ユメちゃん大好きスペシャルラブラブ♡ココア』だあっ!!」


「うわ~美味しそう!!相変わらずネーミングセンスは終わってるけどね!」


「一言多いぞユメ…」


「えへへ、だって本当のことだもん♪でもおもしろ~い!!」


(確かに我ながらヒドいセンスのネーミングだ。ただこれを言うと、ユメは必ず笑顔になってくれる…。俺はこれからもこのスタイルを代えるつもりはないさ…)


「…では、食べるとしようか!」


「うん!今日も無事に朝を迎えることが出来たことに感謝だねパパ!すべての命に、そして神に感謝ぁっ!いただきま~す♪」


「そうだな『神に感謝』だな…」


(フッ、この俺が神に感謝する日が来ようとはな…ユメリア、すべておまえのお陰だよ。おまえとの出会いが、俺の失っていた感情を取り戻させてくれた。俺はおまえのためならまた世界を敵にまわしても構わない。俺が、この俺が必ず、おまえを守ってやるからな……)


「あのさ〜、ユメの顔ばかりじーっと見つめてこないでよ!ねえパパ〜、レディーの顔をまじまじと見るのはマナー違反なのよ!シルクちゃんがそう言ってた!!…ははーん、もしかして、…いや、やっぱりパパはロリコンさんなのかな?」


「ひどい言われようだな…結構シリアスなこと考えていたかもしれないんだぞ?パパ…」


「はぁっ?『シリアル』って何??」


「シリアスだあっ!いいから早く食べなさいもう!!」


朝食を済むと彼は自分とユメリアの食器を洗いはじめる。


「パパ〜じゃあ今日も村に言って来るね〜!」


「ああ、暗くなる前には必ず帰って来るんだぞ〜!」


そう言って彼はユメリアを笑顔で見送った。


これは元魔王とハーフエルフの少女が紡ぐ、温かくてちいさな愛の物語(つづく)

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