絞殺か承諾

酒を呑みながら今日の出来事を振り返る、優斗と会ったこと嘘をついたことそれでも話せて楽しかったこと、そして帰りに愛菜と会ったこと、何の因果かしばらく僕の家に住むことになったこと、

色々なことがあって疲れたなと言うのが1番の印象だった、だけどその印象は悪いものじゃなく何となく満たされたような気持ちになった、仕事をしていた時期は職場関係はあったものの、人間同士の暖かさを感じれていなかったから今日久しぶりにぬくもりにふれて荒んだ心が癒されたような気がする。


愛菜が起きないように静かにベランダにでて

煙草に火をつける、早く大人になりたい、早く死にたいそんな矛盾に目をつぶりながら中学生の時に吸い始めた煙草、

いつの間にかそんな矛盾も忘れてその高い依存性に毒されてしまっていた。

煙草を吸っている時間だけは何も考えずにいられるそんな時間が好きだ、

空気と一緒に吸い込んだ汚い社会の嘘や

吐き出せずに飲み込んでしまった自分の言葉

それら全てを紫煙に混じる毒が殺してくれるような気がする。


煙草を吸い終わって音を立てないように部屋に戻ると愛菜がベッドに腰掛けてこっちを見ていた


「ごめんね、起こしちゃった?」


そう問いかけると愛菜は目を擦りながら


「べつに」


愛菜は素っ気なく返事をした、僕はテーブルに戻って酒をつぎながらそっかと返事を返した。


しばらく無言の間が続き酒を呑んでると

隣に愛菜が座ってきて


「アタシにも頂戴」


そう言って酒を指さしながらコップを差し出してきた、僕は少し迷ったが少しだけなら大した問題もないだろうし、美味しくなくてすぐ飲むのをやめるだろうと思い

少しだけねと言ってコップ半分くらい注いで渡した。


「ん、ありがと」


愛菜はお礼を言って恐る恐ると言った様に口をつけて1口飲んだ、少し味わったあと顔をしかめて


「まずい」


そう言って飲み干した

僕は口直しにと思って缶ジュースを冷蔵庫から取りだし手渡した


「ねぇ先輩、中学の時私が告ったことおぼえてる?」


唐突に投げられた質問に驚きながらも

放課後空き教室で愛菜の相談を受けてる時に


「こんなに優しい人が彼氏がいいな、アタシ達つきあう?」


嘘とも本気とも取れないトーンで告白された事を思い出しおぼえてるよと返事をする。


「あの時さ、他の人と付き合ったり色んな経験してまだ僕のこと好きだったら告白してねって言ったよね」


確かに当時そんなことを言った覚えがする

あの時の愛菜には僕しかいなかったし、きっと憧れや優しさを好きという気持ちと混ぜて考えていたように見えたからこその言葉だった。


「あれから3年いろんな人と付き合ったし、いろいろ経験した中でやっぱり先輩が好きだって思った、付き合って」


何となく話の流れ的にそういうはなしになるだろうなとは覚悟していたけど、実際になると困る話だ、今の僕はあの頃の愛菜が知ってる僕じゃないし、更には仕事を辞めて自殺を考えてるような人間だから愛菜の人生を心を僕に縛り付ける訳にはいけないと思い


「ごめんね、それはできない」


無慈悲な言葉をかけた

愛菜は驚いた顔をした後今にも泣きそうな表情で問いかけてくる


「なんで?好きじゃないのに優しくするの?なんでアタシの心がわかってくれないの?なんで家にあげたの?なんで今日話しかけたの?ねぇなんで好きになってくれないの?」


涙を流しながら子供のように縋り付く愛菜に困りながらも言葉を探すが出てこない

心の中に浮かんだ言葉は「分からない」だった

なぜ愛菜が僕を好きなのか分からないし

愛菜に優しくする理由も分からない、人の心なんて分からないし、今日話しかけた理由だってわかってない、そもそも恋愛が分からない。

僕は何も知らない、人との関わり方も、仕事の頑張り方も、未来の想像の仕方も、みんなが言う普通も、僕が本当は何をしたいのかすら分からない、だからこそ分からないことだらけの世界に嫌気がさして死ぬ事を選んだ

答えが出ないテストを必死に解くより

破り捨てて何も無かったことにする方が楽だからだ。

こんなことを考えていると、愛菜が急に僕の手を取って自分の首を握らせる


「もう疲れちゃった、お母さんに産まなきゃきゃ良かったって言われるのも、お父さんに暴力を振るわれるのも、学校で虐められるのも全部疲れちゃった、せめて先輩の手で終わらせて」


僕はそう言って泣く愛菜を見てとても綺麗だと思ってしまった、高価な陶器が割れて価値が無くなるような、必死に描いた絵画が破られるような儚さが愛菜にはあった

もっと愛菜の事を知り合いと思ったし、全てを知った上で壊れるところを見てみたいと思った

そう思った時には愛菜に酷く魅了されていた

そして気づいた時には愛菜を強く抱き締めていた。

愛菜は一瞬肩を跳ねさせたが、次第に力が抜けていき、いつの間にか愛菜からも抱きしめられていた。


どれくらいの時間がたっただろう、離れようとする僕のシャツを名残惜しそうに軽く掴んだ愛菜の手がとても愛おしく感じた、

口を開こうとする愛菜より早く僕は言った


「一緒に死のう」


僕が唯一あげれる最低で最愛を表す言葉だった

愛菜は首を傾げて意味を聞いてくる


「泣いてる愛菜がとても儚くて綺麗に見えたんだ、愛菜の事をもっと知った上で一緒に死にたいと思った、平たく言えば付き合おう」


愛菜は驚いたような表情を浮かべた


「さっきは断ったくせに次は付き合ってとか、一緒に死のうとか最低すぎ、でもいいよ、付き合おう」


そう言ってまた涙を流す愛菜はやはり綺麗だった

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ここまでで第一章?は終わりです

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