第26話 ギルドより愛をこめて

 ダザイたちは無事にギルドに帰って来た。


「カブを十個も収穫されましたので、10000バッハです。お疲れ様でした」


 ギルドの受付嬢が丁寧にお辞儀をした。


「ありがとうございます」


 ダザイはお金を受け取った。


「約束通り酒を奢ってくれ」


 ジョブズは待ち切れないという様子だった。


「ひとりで飲んでください。お金は私が払います。さようなら」とダザイは言った。


「私たちは他の人との約束があるので」とラプラスが言った。


「手伝ってくれてありがとうございました」とピコが言った。


「おい待てよ。俺をひとりにするなよ。一緒に飲もうぜ」とジョブズが言った。


「だから他の人との約束が…」とダザイが言いかけた。


「おーい。こっちだよー」というフェルマーの声が聞こえた。


「それでは私たちはこれで…」


 ダザイたちは、そそくさとジョブズから離れた。


「こんばんは。エッフェルさん。ユングさん。それとフェルマー。やかんを本当にありがとうございました。すぐに完売しました」


 ダザイはお礼を言った。


「やかんの評判は聞いている。沸騰したら笛の音が鳴るから面白いらしい」とエッフェルが笑った。


 ダザイたちは、エッフェルの机を囲んで座った。


 机の上には美味しそうな料理が並んでいた。


 どれもこれもダザイの知らない食材ばかりだった。


 そして近くの席には不機嫌な顔をしたジョブズが座った。


「彼はモールスだ」


 エッフェルが高級そうなスーツを着こなしたダンディな紳士を紹介した。


「初めまして。ダザイです。こちらはラプラスとピコです」


 ダザイが立ち上がって挨拶した。


「初めまして。モールスです」


「モールスさんも特殊能力者ですか?」とダザイは聞いた。


「そうだよ。顔と名前を覚えた人なら、誰とでも通信できる能力だよ」


 モールスが微笑みながら言った。


「とても便利そうですね」とラプラスが言った。


「電話回線のように利用されるだけさ」とモールスが笑った。


「電話を知っているということは、やっぱり地球の出身だな」


 ジョブズが会話に割り込んで来た。


「ちょっとジョブズは引っ込んでよ」


 ラプラスがジョブズを小突いた。


 しかしジョブズは図々しくモールスの隣の椅子に座った。


「地球の出身だよ。エッフェルもユングもそうだよ」


 モールスがジョブズにもスマートな対応を見せた。


「俺のことは知っているか?ジョブズという名前だ」


 ジョブズがワクワクした表情で三人の特殊能力者に聞いた。


「申し訳ないが、知らないな」


 エッフェルが首を横に振った。


「私も知らないな」


 ユングとモールスも言った。


 それを聞いたジョブズは明らかに落ち込んでいた。


「私たちよりも時代が後なのかもしれないぞ」


 エッフェルがジョブズを励ますように言った。


「やっぱり三人とも死んだ後に輪廻転生ハローワークに行ったのか?」


「そうだね。それは転生した人は全員そうだと思うよ。必ず魂は輪廻転生ハローワークを通過するはずだ」


「前世の記憶はどれくらいある?」


「ハッキリと覚えているわけではないよ。ただし地球にいたことくらいは覚えている」とエッフェルが言った。


 ユングとモールスも頷いた。


「自分が特殊能力者なのはどうして知った?」


「気付いたら人と違うことが出来てしまった感じかな。最初は魔法かと思ったけど、パスポートに能力名が追記されているのを見て、特殊能力者だと確信したのさ」とエッフェルが答えた。


「エッフェルさんのパスポートを見せてもらえますか?」


 ラプラスが珍しく少し緊張した表情で言った。


「いいよ」


 エッフェルが自分のパスポートをラプラスに渡した。


「能力名が『鉄の魔術師』って書いてある。他のステータスも、バランスよく、どれも高いですね」


 ラプラスが興奮気味に言った。


 ダザイとピコもエッフェルのパスポートをのぞきこんだ。


「輪廻転生ハローワークに行ったら、ポイントがたくさんあると言われて、適当に割り振ったんだ。それでハローワークの職員にこの星をオススメされて来たんだ」とエッフェルは言った。


「そのハローワークの職員はウィトゲンシュタインか?」とジョブズは聞いた。


「そんな長い名前ではなかった。確かオルテガとか言ったと思うよ」とエッフェルは言った。


「私の担当はフロムという職員だったな」とモールスが言った。


「私の担当はウィトゲンシュタインだった。ウィトゲンシュタインも生まれ変わったことがあると言っていたぞ」とユングが言った。


「本当か?」


「私は人の心が読める特殊能力者だ。能力名は『集合的無意識』だ。だからウィトゲンシュタインが何を考えているか少し分かった。だから聞いてみたら、地球の出身で、一回目の転生は地球に戻ったそうだ。しかし二回目の転生の時にハローワークに行ったら、スカウトされて、職員として働くことにしたそうだ」


「魂だけの光の玉の時にも特種能力が使えたのか?」


 ジョブズが目を丸くした。


「私の場合はそうだよ。でもウィトゲンシュタインが驚いていたから、かなり珍しいケースだと思うよ」とユングは答えた。


「ウィトゲンシュタインは何か怪しくないか? 他のハローワークの職員もそうだが、この星に転生することを、やたらオススメする」


「それがボスの意向だとウィトゲンシュタインは言っていたよ」とユングは言った。


「ボス?」


「私もそこまでは読み取れなかった。まだ完全に特殊能力に目覚める前だからね。だからボスが誰かは知らないし、輪廻転生ハローワークがどういう仕組みで、何のために動いているのかも知らない」


 ユングが肩をすくめて言った。


「うーん」


 ようやくジョブズが黙り込んだ。

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