第27話 男なら大きな夢を持たないと

「特殊能力は前世で偉大な業績を残した人に発現するのですよね?」


 ラプラスが聞いた。


「詳しいね」


 エッフェルが驚いたように言った。


「この星の面接官をしていたことがありますので」


 ラプラスが照れながら言った。


「それならジャングルに住むヘミングウェイにも会ったことがあるかな?」


「はい」


「彼も特殊能力者だ。能力名は『武器よさらば』だ。敵の戦闘力を一時的に消滅させることができる。だから彼はジャングルでも生き抜ける。万が一トラに出くわしても、トラの戦闘力をゼロにできるからね」


「彼は電話しても、絶対に出ませんが」


 モールスが笑った。


「特殊能力者ってこの星に何人くらいいるのですか?」とダザイは聞いた。


「意外と多いよ。面識がある人だけでも十人はいるな。探せば他にもいると思うよ」とエッフェルが言った。


「しかし前世で偉大な業績を残したということは、大抵の場合は持っているポイントも多い。だから輪廻転生ハローワークで魔法力とかにポイントを配分したら、特殊能力者なのか、強力な魔法使いなのか区別がつかない場合もある」とユングが言った。


「前世の偉大な業績は主に科学によるものが多い。地球なら科学と魔法は相容れないものだが、この星ではその境界線が曖昧になっている。実に不思議なことさ」とモールスが言った。


「フランクリンという人はベルリオーズ魔法学校の出身で、ずっと自分がエーテルの属性の魔法使いだと思っていたらしい。電気を操れる。でもある日パスポートをよく見たら特殊能力者だと書いてあって驚いたらしい。数は少ないが電気を操る魔法使いもいるからね」とエッフェルが笑った。


「他にはどんな特殊能力者がいるのですか?」


 ダザイは興味津々な様子で聞いた。


「有名な人だと『メンロパークの魔術師』ことエジソンはすごいぞ。何でも発明できる能力だ」とエッフェルが答えた。


「彼の能力名はこの町のメンロパーク商店街の名前の由来にもなっている。彼が電灯を整備して夜でも明るくなったんだ」とモールスは言った。


「そして不思議なことに、エジソンも地球の出身だ」とユングが言った。


「やっぱり輪廻転生ハローワークの奴らは何かを企んでいるぞ」


 ジョブズがまた会話に割り込んで来た。


「今のところ分かっている特殊能力者は全員が地球の出身だからね。変わり者のヘミングウェイでさえも地球の出身だ。彼の前世の偉大な業績が何かは、さっぱり分からないが」


 エッフェルが苦笑いした。


「逆に言えば、特殊能力者になれるほど偉大な業績を挙げられる人は、地球にしかいないのかもしれないよ」とモールスは言った。


「それはなぜだ?」とジョブズが聞いた。


「分からない。単純に文明が進んでいるだけかもしれない」とユングは言った。


「クルトゲーデルがこの星を滅亡させようとしているから、それを防ぐために強い特殊能力者をこの星に集めているのかと思っていました」とダザイは言った。


「鋭いね」


 エッフェルが感心したように言った。


「それは私も考えた」とモールスも頷いた。


「しかし特殊能力者と言っても戦闘に向いたタイプは多くないぞ。私なんか戦闘力はほとんどない」とユングは言った。


「それでも特殊能力者はこの五年以内にこの星に来たものがほとんどだ。これはちょうどクルトゲーデルが暴れ出した時期と一致する。ヘミングウェイは例外だが。三十年くらいジャングルに住んでいるらしいぞ」とエッフェルは言った。


「特殊能力者のみなさんは、もっと長い間この星に住んでいるのかと思っていました」とダザイは言った。


「今ではこの町にすっかり馴染んでいるが、まだ三年くらいだよな?」


 エッフェルがモールスとユングに聞いた。


「そうだね。他の特殊能力者もそうだと思うよ」


 モールスとユングが頷いた。


「クルトゲーデルとは誰だ? 俺は知らないぞ?」


 ジョブズがまた口を開いた。


「この町でクルトゲーデルを知らないなんて、相当おかしいわよ。お酒の飲みすぎじゃないの?」


 ラプラスがジョブズに言った。


「だってこの星に来てから誰とも話が合わないし…。引きこもりがちだし…」


 ジョブズがしょぼくれた。


「私たちは魔法使いを目指しているんです。もしもそうなったらクルトゲーデルと戦うことになるかもしれないですね」


 ダザイは不安になって言った。


「君は容器屋としての素質があると思うけどな」


 ユングがダザイを見て笑った。


「私は魔法使いになりたいんですよ」


 ダザイは慌てて否定した。


「それならベルリオーズ魔法学校を受験するのかい?」とエッフェルが聞いた。


「はい」とダザイは言った。


 ラプラスとピコも頷いた。


 そして食事に夢中になっていたフェルマーも頷いた。


「まずは合格することだな。その後のことは、その時に考えればいいよ」


 エッフェルが優しく微笑んだ。


「特殊能力者のみなさんは、魔法使いにはならないのですか?」とラプラスは聞いた。


「特殊能力者で、なおかつ魔法使いという人は少ないな」とエッフェルは言った。


「基本的に科学に由来する特殊能力者は強い魔法使いになれない。やっぱり科学と魔法は相性が悪いからね。私も魔法力は低いよ」とモールスは言った。


「私は科学に由来する特殊能力ではないので、魔法も使えるよ。でも全体的に戦闘に向いたステータスではないので、魔法使いになりたいとは思わないね」とユングは言った。


「フランクリンという人は電気を操る特殊能力で、魔法使いだったのですよね?」とダザイは聞いた。


「電気というと科学をイメージするかもしれないが、フランクリンは厳密には、雷を操る能力者だ。あくまでも自然界にあるものだよ」とエッフェルは答えた。


「科学由来ではない特殊能力者が魔法使いになったら強いということですね」とピコが言った。


「理論上はそうなるね」とエッフェルは言った。


「ヘミングウェイは科学に由来した特殊能力ではないから、魔法使いになれると思う。しかし変わり者だから、未だに職業は冒険者のままだ」


 ユングは苦笑いをした。


「ユングさんの職業は何ですか?」とダザイは聞いた。


「私は学者にしているね。頭脳ポイントが高いからね」とユングは答えた。


「モールスさんの職業は何ですか?」とラプラスが聞いた。


「私は発明家だね。とても珍しい職業で、この町には、私とエジソンとライトの三人しかいない」とモールスは言った。


「俺も発明家になるぞ!」


 ジョブズがいきなり立ち上がって叫んだ。


「コンピューターを発明して、この世界を変えてやる。そしてクルトゲーデルとかいう奴も俺がぶっ飛ばす」


 ジョブズがワクワクした表情で言った。


「そろそろ解散するか」


 エッフェルが苦笑いをして言った。


 ダザイとラプラスとピコは、三人の特殊能力者に丁寧にお礼を言って帰った。


 ジョブズとフェルマーはなぜか意気投合したらしく、ふたりでお酒を飲み始めた。


「やっぱり男なら大きな夢を持たないといけないよな」


 ジョブズの楽しそうな大声がギルドの外にいても聞こえた。

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