第25話 スペクター
しばらくしてダザイたち四人のパーティーは農場に辿り着いた。
そこには「カブ畑」という看板の建てられた畑があった。
そして大きなカブの葉がズラリと並んでいた。
「これを全部引っこ抜けばいいんだな」
ジョブズが張り切って言った。
「これは確かに筋力が必要そうだな。でもこれってもしかして…」
巨大なカブの葉を見ながらラプラスが言いかけた。
ジョブズがいきなりカブを引っこ抜いた。
大きなカブは地面から掘り起こされて、ゴロンと転がった。
次の瞬間、カブは口をパクっと開けてジョブズに噛みつこうとした。
「パックマンみたいだな。懐かしいなー」
ジョブズは楽しそうに言いながら、カブを何度も殴りつけた。
カブは倒れて動かなくなった。
「これはジャイアント・カブだろ。魔物の一種だよ」
ラプラスがあきれたように言った。
「魔物のカブならポスターに書いておいて欲しいな」
ピコが怯えたような表情で言った。
「ジョブズがいて良かったね。少なくとも力負けはしないよ」とダザイは言った。
「でも私たちも魔法で倒してみようよ。でないと魔法力が上がらないよ」とラプラスは言った。
「そうだね。ジョブズ。カブをもう一個…」とダザイは言いかけた。
「それ」
ジョブズはダザイの方にどんどんカブを投げつけた。
「一度にたくさん引っこ抜くなよ」
ラプラスが怒鳴りながら逃げ回った。
「アクア・ボール!」
ダザイは魔法の杖を構えて叫んだ。
今朝に読んだ魔法の本に載っていた呪文だ。
すると杖の先から小さな水の玉がカブに向かって飛んで行った。
「見て! 初めて魔法を使えたよ!」
ダザイは大はしゃぎで言った。
「ジャイアント・カブは土の属性の魔物だ。水を与えるとパワーアップするぞ!」
ラプラスが叫んだ。
「え?」
ダザイの放った魔法の水の玉を吸収したジャイアント・カブは二倍ほどの大きさになった。
ダザイの目の前のジャイアント・カブは直径二メートル以上ある。
巨大な口だけで一メートルはありそうだ。
「あれは俺でもどうしようもないぞ」
ジョブズの溜息が聞こえた。
「ファイア・ボール!」
ラプラスが叫んだ。
するとジャイアント・カブに火の玉が命中して燃え上った。
「燃やして灰になったら商品にならないぜ」
ジョブズがあきれたように言った。
「そんなこと言っている場合じゃないでしょ。他のカブを自慢の怪力で早く倒してよ」
ラプラスがジョブズに命令した。
「やはり俺がいないとダメってことか」
ジョブズが高笑いをしながら、ジャイアント・カブを全て叩きのめした。
「今日はもう帰ろう。無駄足だったわ」
ラプラスが溜息をついた。
「ちゃんとカブは収穫できたぞ」
ジョブズが得意げに言った。
「私たちは魔法力を上げたいのよ。でも私は火の属性だからカブを燃やしてしまうし、ダザイちゃんは水の属性みたいだからカブとは相性が悪いし、ピコちゃんはたぶん土の属性だから、これも相性は良くないわ」
「魔法力を上げたいなら、相性の良い魔物討伐の仕事を選んだらいいではないか」
ジョブズが正論で返した。
「カブが魔物とは思っていなかったのよ。農場に行く途中でスライムでも倒したらいいかなと思っていたのよ」
「スライムを倒しても魔法力は上がらないぞ。戦闘力は1ポイントだけ上がるが。スライムには全く魔力がない。だから厳密には魔物ではない」
ジョブズが冷静に言った。
「だからなんか適当な魔物が出ないかなって思っただけよ」
ラプラスがそっぽを向いた。
「お前も絶対に地球の出身だ。俺が断言する。そんな都合よく適当なモンスターが出るのは地球のゲームにしかない設定だからな」
ジョブズが満足そうな表情でラプラスに言った。
ダザイたち四人のパーティーは、町へと帰った。
収穫した十個のカブは、ジョブズが引きずって運んでいた。
「そんなに落ち込むなよ。水の属性だと分かっただけでも収穫だ」
ラプラスがダザイに言った。
「でも私は異世界に転生してチート能力で無双するはずだと思っていたから…」
ダザイは厳しい現実にがっかりした。
「その自信がどこから来るのか知らないけど、世の中はそんなに単純ではないよ」
ラプラスが言った。
「ところでどうして私が土の属性だと思うの?」
ピコが不思議そうな表情でラプラスに聞いた。
「女の勘よ。土の属性の呪文を試してみてよ」
ラプラスはピコに言った。
「ソイル・ボール!」
ピコが魔法の杖を構えて叫んだ。
すると杖の先から小さな土の玉が飛び出した。
「やっぱり」
ラプラスが満足げに微笑んだ。
「よく分かったね。すごいね。カブのポスターを見てイヤな予感がすると言っていたのも当たったし」
ピコが驚いて言った。
「うーん。お前も特殊能力者ではないのか?」
ジョブズがラプラスをじっと見つめた。
「そんなわけないでしょ」
「怪しいな…」
ジョブズが呟いた。
「ところで魔物は全然出て来ないね」とピコが言った。
「ハイリゲンシュタットの町の周辺は強い魔物は出ない。というか生息できない。今日のカブのように食用として人間が栽培している場合は例外だが」とジョブズが言った。
「どうしてこの町の周辺は強い魔物は出ないの?」とダザイは聞いた。
「とても強い魔力を持ったものが存在しているからだ。おそらくソクラテスの石だろう」とジョブズは答えた。
「逆に強い魔力に引き寄せられて、魔物が集まったりしないの?」とダザイは聞いた。
「魔物は確かに魔力が大好物で、魔力に引き寄せられる。お前たちのような低い魔法力の人や、弱い魔法使いは、よく襲われて魔力を吸収される。しかし魔力が強過ぎると魔物は近付かない。自分よりも強い魔物がいると本能的に感じるんだ。スライムだけは能天気だから、どこでも出現するが」
「低い魔法力で悪かったですね」
ラプラスが少し怒ったような口調で言った。
「三人ともまだ若いんだ。これから上げればいいだろ。未来があるってのはいいもんだ」
ジョブズが高笑いをした。
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