第23話 二度目のミッション

「私たちは今日はまだ働いていないわ」とピコが言った。


「ギルドに行きますか。でも人気の仕事はもう取られてしまっているだろうな」


 ラプラスが溜息をついた。


「とりあえず行ってみようよ」


 ダザイは早く魔法力を上げたくて焦っていた。


 朝とは違って、ギルドの前の掲示板には、あまり人はいなかった。


 今日もいろいろな仕事のポスターが貼られていた。


「これは?」


 ピコが一枚のポスターを指差した。


 そのポスターには「農場にてカブの収穫。一個につき1000バッハ。パーティーの総合戦闘力もしくは総合魔法力5000以上」と書かれてあった。


「カブの収穫で一個1000バッハって高過ぎないか?」


 ラプラスは怪訝そうな顔でポスターを見た。


「魔法力1000以上あるから何とかなるんじゃない?」とダザイは言った。


「でも昨日のトリケラシャークを倒せたのはフェルマー、じゃなくて魔剣シューベルトのおかげだろ」とラプラスが言った。


「魔法力があることと、魔法を使えることは、また別だからね」とピコが言った。


「どういうこと?」とダザイは聞いた。


「魔法力はあくまでもその人の基礎体力のようなもの。筋肉トレーニングで向上させることもできる。でもそれで何も練習しなくて、バスキアが上手くなるわけではないでしょう。実際に魔法を使うことはバスキアをプレイするようなものよ」とラプラスが言った。


「バスキア?」


「この町で一番人気のあるスポーツだよ。魔法使いにしかできない。ベルリオーズ魔法学校にスタジアムがあるよ。私も観に行ったことはないけど」とピコが言った。


「どんなスポーツ?」


「ルールはシンプルだよ。箒に乗って空を飛びながら、ボールをゴールに放り込むだけ」


「サッカーみたいなものかな」とダザイは言った。


「サッカーって何だっけ?大昔に聞いたことがある気がするけど、思い出せない」


 ラプラスが頭を抱えた。


「私は聞いたことないな」とピコが言った。


「ボールを足で蹴ってゴールに入れるの」


 しかしダザイも、どこでサッカーを知ったのかは思い出せなかった。


「たぶん私とダザイちゃんは転生する前の星が一緒だと思うよ」


「やかんは地域か時代が違うから知らないけど、サッカーは聞いたことがあるもの」


 ラプラスが難しい顔をした。


「そして輪廻転生ハローワークを通じて、この星に来たのね」


「前世の記憶ってどれくらいあるの?」


 ピコが興味深そうに聞いた。


「前世はほとんどないな。小さな光の玉になって輪廻転生ハローワークに行ってからの記憶は少しある」とラプラスが答えた。


「私も輪廻転生ハローワークに行ったことは覚えている。でも前世はあまり覚えていないな。ゲームとマンガも、今となっては、どんなものだったか思い出せないよ」とダザイも答えた。


「私は面接官の仕事をしていたから、仕事の研修も受けたし、いろいろな人のパスポートを見たけど、輪廻転生ハローワークについては謎だらけね」


 ラプラスが難しい顔をして腕を組んだ。


「今晩にエッフェルさんに聞いてみるのもいいかもしれないね」とピコが言った。


「それで仕事はどうする?」とラプラスが聞いた。


「カブの収穫でいいんじゃない? 場所も近いし」とダザイは言った。


「なんかイヤな予感がするけど…」とラプラスが言った。


「でも他に私たちに出来そうな仕事はないよ」


 ピコが掲示板を眺めながら言った。


「仕方ない。カブを収穫に行こう。途中で魔物がいたら魔法で倒せばいいわ。そうやって魔法力を上げよう。どうせこの付近は強い魔物なんか出ないわよ」


 ラプラスが観念したように言った。


 ダザイたちはギルドの中に入った。


 酒場には昼間から飲んだくれた青年がいた。


 青年は筋肉ムキムキのすごい身体をしていた。


 ダザイは受付嬢に希望の仕事を告げた。


「パーティーは三人ですか?」と受付嬢は聞いた。


「そうです」


「パーティーの総合魔法力は5800ですね。ただし総合戦闘力が低いので少し心配です」


 受付嬢はいかにも心配そうな表情を作りながら言った。


「でもカブの収穫ですよね?」


「カブと言いましても結構大きいですよ」


「大丈夫だと思います…」


「話は聞いた。俺が一緒に行ってやろう。この筋肉の塊つまりは戦闘力の塊であるジョブズの出番だ」


 飲んだくれの青年が荒々しい声で言った。


「お客様の職業は戦士で戦闘力は5000ですね。パーティーにいると心強いですよ」


 受付嬢はジョブズの加入を勧めた。


「どうする?」


 ダザイはラプラスとピコに聞いた。


「見返りは?」


 ラプラスがジョブズに聞いた。


「今夜の酒を奢ってくれたらそれでいい」とジョブズは言った。


「武器は持っている?」


 ピコがジョブズに聞いた。


「武器は持っていない。買うお金がない」


 ジョブズはなぜか威張った態度で言った。


「また変な人だよ」


 ラプラスが溜息をついた。


「でも話しかけてくる人は役に立つことが多いよ」とダザイは言った。


「またそれ…」とラプラスが言いかけた。


「おい!お前もしかしてゲームを知っているのか?」


 ジョブズが興奮気味に言った。


「聞いたことはありますけど、忘れてしまいました」


 ダザイはジョブズの迫力に後ずさりした。


「話しかけてくる人が役に立つのは、ロール・プレイング・ゲームの基本ルールだ。それを知っているということは、お前も現代の地球の出身に違いない。ようやく話が分かる奴と出会えて良かった」


 ジョブズは感激して、ダザイを抱きしめようとした。


 ダザイはジョブズをひらりとかわした。


「こんな奴を連れて行って大丈夫かよ」とラプラスが言った。


「流れに任せてみるよ」


 ダザイはやれやれという表情で言った。

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